2022.12.5
働きながら起業してみる?つまずきやすいアイデア企画のコツを解説!
デライト・ベンチャーズは、起業家が世界で活躍するのを全力で支援するベンチャーキャピタルとして2019年9月に創業し、スピンアウトを前提とした事業創出の支援を積極的に行っています。
起業支援プログラム「ベンチャー・ビルダー(VB)」の中には、エンジニアリングやデザインなど、人の支援だけでなく、起業に向けての基礎知識の提供や起業アイデアのアドバイスなどもあり、一から自分で起業を目指すよりチャレンジがしやすい環境で始められます。
本記事では、VB事業の責任者として新規事業・スタートアップの創出・育成全般を務める坂東 龍が、起業するにあたって大事にしたいことを解説します。
まず、VBプログラムを利用し起業することのメリットとは何でしょうか?
坂東:起業の立ち上げ期には、もちろんさまざまなリスクや困難がつきものです。まず、立ち上げるにしても時間の確保が難しかったり、開発チームが組めなかったりと……以下のようないろんなハードルがありますよね。
- いきなり会社を辞めて起業するには給料・生活のリスクがある
- 起業準備をしたいが、時間が取れずなかなか着手できない/進捗しない
- 起業アイデアが決まらない
- (顧客ニーズ不在など)事業が失敗するリスクがある
- プロダクトの開発チームが組成できない
- (上記を懸念して企業内の新規事業で事業立ち上げリードしても)オーナーシップを持てず、成功時のファイナンシャルリターンはない
そこで、「企業内での新規事業立ち上げ」のような環境と「スタートアップ起業」で成功した際のファイナンシャルリターン、この2つを両立させて起業に挑戦できる環境を整えたのがVBになります。VBには以下のようなメリットがあります。
- 既存勤務先に勤めながら業務外で企画・検証し、開発・運営フェーズではデライト・ベンチャーズに雇用される
- 期限のある事業立ち上げプログラムで同フェーズの他起業家候補と共に切磋琢磨できる環境
- 課題発見のフレームワーク/事業アイデアネタのストック提供
- 事業立ち上げの専門家が事業案の評価事業検証の支援
- 新規立ち上げ経験豊富なエンジニアによるMVP開発体制
- スピンアウト時には株式のマジョリティ(創業者:DV社=82%:18%の割合)を取得
これまで社内からスピンアウトした方々はどのくらいいますか?
坂東:開始から約3年経って累計14社(2022年9月時点)が独立起業またはスピンアウトを達成しています。
実際に独立した方々の例をあげると、マンションの大規模修繕における情報の非対称性課題を解決する「スマート修繕」やSaaSアカウント管理サービスの「zooba」など、業界が偏らず多岐にわたるのが特徴です。
対象とする事業の制限などはあるのでしょうか?
VBが投資する事業対象としては、社会・市場における大きな顕在課題を解決する事業としています。
課題のテーマ例は以下の通りです。
- 情報の非対称性による課題
- 社会生産性の課題(非効率・無駄・高コスト)
- SDGsに関する課題
※既に投資しているサービスとの競合は不可
※予算枠の範囲内で初期トラクションが確認できるプロダクトが対象
※いわゆるスモールビジネスや単なる後発での新規事業(既存市場×既存製品価値の領域を攻める)は対象外
サービス領域に縛りはなく、原則DeNAの事業との領域の重なりも原則として問題ありません。
起業する上で一番大事だと思うことは?
坂東:まず、さまざまなところで言われていますが、スタートアップは90%以上が失敗するんですよね。その理由は複数あげられるのですが、「タイミングが悪かった」「起業家の能力が足りなかった」「調達ができなかった」「いいチームが作れなかった」などです。
でも人の問題を置いて事業に関していうと「顧客課題がなかった」「課題が小さかった」が失敗の主要因だと思います。
とくに、起業の上流工程においては、エグゼキューションではなく課題設定の欠陥が非常に多いです。なので我々は、アイデア段階での「課題」設定やその評価を重要視しています。プロダクト開発前のなるべく上流工程(「アイデア企画」のフェーズ)から失敗要因を見つけ、無駄な失敗確率を減らすことが重要です。
どのようにアイデアを考えていけばいいのでしょうか?
坂東:前提としてアイデアを「考え」たり「想像する」というのはやってはいけません。
まず新規事業アイデアを企画する上では、解決したい課題事象を見つけることから始めることが重要です。
課題があって、はじめてその課題を解決するソリューションや収益モデルが決まります。課題解決型ビジネスにおいて、ソリューションありきのアイデアは成功率が低いと言われているのです。
ここからは坂東さんに順を追って事業アイデアにおける課題の設定について説明していただきます。
事業のタネとなる課題の見つけ方
課題の見つけ方としては、いろんな方法がありますが、代表的なものを3つあげて説明していきますね。
1.自分の経験した問題点から見つける
坂東:まず一つ目が、これまで自分自身が経験し問題点(怒り・恐れなど)を感じた領域、自分が専門知識を有している領域、自分しか気づいていない課題領域から見つけることです。やはり自分が経験したことのほうが、課題の筋がよい確率が高いのです。
また、起業家のストーリー、体験は唯一無二なので、他者にはマネできない戦略になります。実際、自身が感じた課題を事業にしたのがスマート修繕の豊田さんなどがいますね。
私も「みんなのウェディング」の立ち上げには、自身が体験した問題意識がきっかけになっています。
その後大事なのが、そのアイデアの対象領域のユーザーターゲットをより深く理解することです。まず、1.外からユーザーの言動を観察し、2.インタビューし、3.ユーザーに没入してみてください。そして、結果を下記のEmpathy mapにまとめてユーザーに共感し、解くべき課題をイメージしてみてください。
2.領域セグメント×バリューチェーンで見つける
2つ目の方法として、知見があったり興味がある領域セグメントとそのセグメントのバリューチェーンを軸に、それぞれの問題状態や課題をいくつも列挙していく手法があります。領域セグメントは、その理解度や課題の数に応じて適切に絞ったり拡げてください。もれなくダブりなく抽出しやすい方法だと思います。
3.既存解決手段・サービスから見つける
次は、既存サービスが解決しようとしている課題から見つけるという手法です。
これは既存サービス市場があるなら、それらを使うユーザーには解決したい課題が存在するということで、非常に効率的で筋が良い手法だと思います。
各領域のカオスマップのプレイヤーたちがどんな課題を解決しようとしているのか?また、その周辺で満たされていない課題が何かを洗い出します。
弊社でも、日本のみならず欧米のスタートアップのデータを数千件収集して、どのような課題を解決しているのかをリストアップして整理しています。
課題の評価の仕方
続いて、課題の評価についてご紹介します。
なぜ、課題の評価が重要かというと、課題解決型のサービスは課題を解決するためのサービスであり、課題(ターゲット含む)が適切に設定されてないと、それに対応するソリューションをつくったところで事業としては失敗する可能性が高くなります。
よって、事業アイデアを明文化する前に、課題が正しく設定されているのかを評価し、見極める必要があります(いわゆるCustomer-problem Fitの確認)。
これも見極める方法はたくさんありますが、代表的なチェック方法・考え方をご紹介します。
1.ソリューションがないことを課題としてないか?
まず、「ソリューションありきの逆引きで課題設定していないか?」という点に注意したいです。繰り返しになりますが、「ソリューション案ありき」で、課題は逆引きでとってつけたように提案するケースが非常に多いのです。
ソリューションを提案するために、ソリューションが世の中に無いことを課題と設定してしまうケースなどがこれに当たります。例えば、買い物代行サービスを提案したい場合に課題を「買い物代行してくれる人がいない」と設定したり、実名のレストランレビューサービスを提案したい場合に「実名レビューサイトがない」と課題設定することです。
これらの課題設定は、顧客があるべき姿に到達するために解決すべき要因ではないことが多いので注意が必要です。
2.課題は顕在化しているか?
次は「課題が顕在化しているか?」です。
これは事業が成立するためには、すごく重要なポイントです。ソリューション案ありきで思い入れが強い人はこの観点がクリアできていない場合が多いです。
ユーザーに「課題がありますか?」と尋ねると「ある」と回答するのですけど、実際はその課題を解決しようとコストや工数をかけていないことが多い。これは課題が顕在化していない証拠です。
顕在化している課題というのは、対象ユーザーがコストや工数をかけて解決しようとする事象が確認できていることです。逆に潜在的な課題は、ユーザーに解決意欲も解決アクション(コスト・工数)事象もないのです。
潜在課題も理論上は説明できて、例えば花粉症患者の仕事の効率性低下は○億円の経済損失、みたいに算出できるんですけど、その仕事の効率性をあげること目的で、解決のためにアクションしている人は少なかったりするわけです。
課題が顕在化しているかどうかは、コストや工数をかけてでも解決しようとする事象が存在しているかどうかで判断してください。
3.(悪い)結果状態を課題として設定していないか?
次のチェックポイントとしては「結果状態を課題と設定していないか?」です。
これも、冒頭の課題の定義で説明しましたが、「結果状態」を課題と設定する人が多いのですが、これはあくまでも問題の状態であって、解決すべき要因ではありません。
先ほどのマンションの大規模修繕に対しての理事長の立場でいくと、大規模修繕の費用が高いというのは直接解決できる課題ではなく、中間業者が情報の非対称性を利用して不当に高い中間マージンを得ているという主たる要因を課題として設定しなければなりません。
ここに対して、工事会社のオープンな見積もり情報を提供するというソリューションで直接的に解決するわけです。
一方、悪い例としては、空き家シェアの事業を立ち上げたい人が「日本の空き家率は○%だ」という結果状態を課題と設定したりするのも見受けられますが、このような課題設定をしても解決策と直接繋がらないのです。
こういう場合はきちんと本質的な課題を捉えられていないケースが多いと思われますので注意です。
4.課題はありたい姿に即しているか?
次のチェックポイントとしては「顧客のありたい姿に即した課題か?」です。
- ターゲット顧客のあるべき・ありたい姿に向かうための解決・克服すべき課題を設定しているか?
- ソリューションを正当化したり競合との差別化を図る目的で課題設定していないか?
というのがチェックするポイントです。
例えば、部活動でチームが強くなることを目的として部活動アプリをサービス展開する場合に、部費の徴収機能を差別化要素として入れたいがために、部費の徴収の課題がある!と主張したりしがちだと思うのですが、ありたい姿に即してどうしても解決したい課題ではありません。
5.課題の粒度が適切か?
次は「課題の粒度が適切か?」です。課題が上位階層(または広範囲で抽象化し)過ぎていれば、その課題範囲が広すぎて直接的な解決策を見つけるのが難しいですし、逆に、細分化され過ぎていれば、課題が小さくビジネスとして魅力がなくなります。課題の設定レイヤーを調整するために「なぜ」を掘り下げて具体化したり、課題群を共通グルーピングして抽象化し、解決するのに適した粒度で見つけることが大事です。
例えば、メンタルヘルス領域でスタートアップを作りたい人が、うつ病は「社会的な課題だ!」「労働生産性が落ちている!」みたいな課題を設定しがちなのですが、これはあまりにも上位概念でありファジーかつ結果状態でしかなく、その要因を捉えてないので良い課題設定ではありません。
例えば「早期に相談相手が見つからないこと」を課題とすると、直接的に解決できるので良い課題設定だと思います。逆に「相談相手に申込させるときに勤務先を書かねばならない」みたいに具体化・細分化しすぎると、課題が小さくなってしまいビジネスボリュームが小さくなる懸念があります。
ビジネスとして解決できる程よい課題の大きさ・具体度で設定することが求められます。
6.課題は大きいか?
これはスタートアップならではのチェックポイントです。スタートアップは大きな事業に成長しなければならないので、大きい課題に対処するビジネスにチャレンジすることが求められます。単なる新規事業で大きくならなくても良いのであれば、気にしなくてもいいです。
なぜ課題の規模が大事かというと、どんなに素晴らしい解決策を提供しても、課題の大きさの範囲内でしか価値は提供できないので、課題が小さければ小さいビジネスにしかなりません。
この棒グラフのイメージですが、一番右の図のように、解決策が素晴らしくとも課題に対してオーバースペックであれば提供価値は小さく、収益も期待できない。
左の図のように、大きい課題で、そのほとんどを解決できるような提供価値があればベストです。課題の大きさは、各要素を掛け合わせたり足したりして算出してみましょう。
ただ市場規模が大きければいいわけではないので、課題をボトムアップで算出してください。定量化できない課題は抽象的過ぎるのかもしれません、またはそもそも課題が存在しない可能性もあります。
ちなみに、デライト・ベンチャーズは1,000億円以上/年の課題規模を投資基準としています。
さて、これまで課題の見つけ方と評価の方法を説明してきました。
課題が決まったら、それを直接的に解決するソリューション案も含めてアイデアを明文化します。以下がデライト・ベンチャーズのアイデアの提案シートです。赤の点線で囲っている部分は本稿でご紹介してきた内容を埋める形になっていますので、ご自身の事業アイデアを記載してみて、発見した課題をチェックしてみてください。
この記事ではアイデア企画について、とくに「課題」設定の重要性を中心に紹介させていただきました。
デライト・ベンチャーズのVB事業を通じて、事業創出にチャレンジしたい方は、ぜひ次回Vチャレにご応募ください。開催時期はVチャレサイトにて告知予定です。