2023.12.20
エンジニア起業家を全面支援、プロダクト起点でまだない価値を創出したい
新プログラム「VチャレTech」企画者対談:川崎修平×藤井康介
デライト・ベンチャーズは2023年12月20日、エンジニアの起業支援に特化したインキュベーションプログラム「Vチャレtech」の開始を発表しました。VチャレTech構想のきっかけや目的、プログラムを通じて目指すものは何か。本プログラムを立ち上げたマネージングパートナーの川崎修平、マネージャーの藤井康介の2人が、エンジニアへのメッセージも込めて語ります。
「メインターゲットはエンジニア」可能性が見えたプロダクトを支援
─2人はベンチャー・ビルダー(VB)事業で、どのような立場から起業家を支援していますか。
川崎:僕はエンジニアとして、プロダクトの立ち上げと、立ち上がった後しばらくの間、体制ができ、一定のトラクションが見えるまでの支援を担当しています。
藤井:僕は主に起業したい方にさまざまな支援をしながら、プロダクトを作るフェーズで、MVP(Minimum Viable Product:最小限の価値を提供できるプロダクト)の設計やプロダクトマネジメントも平行して担当しています。起業家を支援しながら、出資するスタートアップの生み出すプロダクトのクオリティにコミットする立場です。
─これまでVB事業で提供してきた「Vチャレ」と「VチャレTech」との大きな違いは何ですか。
藤井:VチャレTechは、エンジニアをメインターゲットとしたインキュベーションプログラムです。特徴はプロダクトリリースを起点としていることです。
Vチャレは起業のリスクを最小化するというコンセプトに基づき、働きながら起業に挑戦できるプログラムで、プロダクトを作る前に課題の存在を細かく確認していくアプローチをとります。課題の規模・大きさを定量的に表したり、フェルミ推定(把握することが難しい数値を論理的に概算)を行ったりして、ユーザーにとっての価値をインタビューやアンケートを通じて検証した上で、プロダクト開発に着手します。
Vチャレは起業家の方からの満足度も高いのですが、価値提案型の事業やユーザーも気づいていないような潜在課題へアプローチする場合などでは「やってみないと分からない」ことが多く、プログラムとの乖離を一定感じていました。そこでVチャレTechでは、まずプロダクトを市場にリリースしてしまって、市場からのレスポンスによってアイデアの良しあしやユーザーの存在、価値を検証していくアプローチを取り入れています。あるべき未来像を定義して、そこから逆算して必要なものを市場に投げかけながら価値を提案し、ユーザーの反応を観察しながらそれが正しいかどうかを確かめていくイメージです。
Vチャレとは異なる枠組みのプログラムを作ることで、より大きくなる事業やスタートアップの創出に貢献できるのではないかという仮説があります。
─VチャレTech構想のきっかけとなった背景はほかにもありますか。
川崎:僕は起業こそしていませんが、趣味で作ったサービスを売却したり、会社の中で事業を立ち上げたりしてきました。その経験を踏まえてずっと言っているのは、「エンジニアは自分が頭の中に思い描いたサービスをそのまま世に出せる、一番有利な立場にいる」ということ。何かアイデアを持っているなら、そのアドバンテージを活かさないともったいないです。
プロダクトを作る人にコストがかかる場合、アイデアの段階で確度の高いものに仕上げて周囲に説明する必要があります。でも、エンジニアの利点は、言葉にするのが面倒なら、作っちゃえばいいというところです。自分自身、そういうやり方でなければ、おそらくサービスの立ち上げはできなかったと思います。
だから僕に似たタイプの人たちが、いいアイデアが浮かんだら言葉にしなくてもダイレクトに作って出せるような、エンジニアの強みを生かせる場所がほしいと個人的にも思っています。
藤井:ピッチではなく、結果で勝負する。カッコいいなあ。エンジニアはそれができますもんね。
僕はエンジニアの起業家が日本でももっと増えるとよいと思っています。ビジネス面を我々が支援することで、エンジニアがアイデアや技術力を思いきり爆発させる受け皿があれば、エンジニアのキャリアにとっても、そしてスタートアップエコシステム全体にとっても、いい影響があるのではないかと。
川崎:アメリカでも爆発力のあるプロダクトを持つ大きな会社は、エンジニアが創業者であるところが多いです。細かな検証をせずとも「たぶんこの人たちに刺さるだろう」というきっかけで作り始めるので、初期のプロダクトが圧倒的に早くできます。事業を始めるときって、エンジニアの人件費が結構重くなります。自分自身でプロダクトを作れると、そこにそれほどお金がかからなくなり、クイックに始められます。
多角的に慎重に判断するというよりは、ある程度の可能性が見えたプロダクトに対しては面倒なことをいわずに支援する。支援メンバーのそのフットワークの軽さも、VチャレTechの特色かと思います。
エンジニア活躍の場を広げることで、スタートアップ全体のエコシステムにも貢献
─このプログラムで実現したいことは何ですか。
藤井:やはり多くのスタートアップを創出したいです。個人的にもワクワクする、面白い事業の箱をいっぱい作りたいと思っています。VチャレTechを通じてエンジニアが考えた、とがったサービスや世の中にない新しいものがたくさんできれば、その実現に近づくのではないかと考えています。
またVチャレtechのようなプログラムに参画いただければ、エンジニアがビジネス面での経験を積むことができ、スタートアップ全体のエコシステムにも貢献するのではないかと思います。
川崎:エンジニアが活躍できる場を僕たちが提供して、うまくいき、起業してもらって出資させてもらうのがもちろん、プログラムの一番の理想です。
ただ、もし起業に至らずいまの会社へ参加者が戻ったとしても、依頼されたものを作るだけではなくて、アイデアをかたちにするところまで仕事の領域は広がっているはずです。そうしてアイデアをかたちにする文化がいろいろな場所へ広がることで、エンジニアの仕事が10年先も働いていて楽しい、面白いものになりそうだという期待値も上がればいいなと考えています。
─エンジニアのキャリアの新しい可能性にもつながるんですね。
藤井:僕は新卒で1年半システムエンジニアをやって、向いていなくてやめてしまったので、エンジニアへの強いリスペクトがあります。これまでもさまざまなサービスを立ち上げてきましたが、いかに彼らがバリューを発揮できる場を用意するかを強く意識してきました。彼らがもっと活躍できる場を作ることは、日本社会にとっても重要なことだと考えています。
川崎:エンジニアの立場でサービスを立ち上げようとすると足りないところも多いし、正式な立ち上げとなるとさらに面倒なことも多いので、サポートが必要です。僕が起業せず、会社に入って事業の立ち上げをやっていた理由の1つはそれでした。
僕らからすると「プロダクトマネジャーには面倒くさいことは言われたくないが、必要なことはやってほしい」みたいな、結構都合のいいところがあって、藤井さんのようなプロダクトマネジャーにはだいぶ助けてもらってきました。
藤井:そういった僕と川崎さんの凹凸がそのまま、このプログラムの支援のあり方に反映されていますね。
事業作りにおいてエンジニアが支援してほしいと思うものはなるべく提供し、エンジニアが嫌がるであろうことはなるべくしない。あくまでいいものを作ることにコミットして、変にコントロールしようとせず、リスペクトを持って、お互いが足りない部分を補い合うのがベストだと考えています。
事業化に必要な全てのファンクションでエンジニアを支援
─プログラムはどのような流れで実施されますか。
藤井:設計フェーズと検証フェーズの2つに大きく分かれています。設計フェーズでは、エンジニアの考えに基づいて、どういうビジネスをやっていくのか、どういうプロダクトを作り、どういう検証をするかを簡単にすり合わせます。
その次の検証フェーズでは技術検証やUXの検証をし、グロースに必要なKSF(Key Success Factor:重要成功要因)を見つけてそこを踏む、といったアプローチを取り、最大6カ月間ぐらいかけて検証していきます。
その中でデライト・ベンチャーズは、検証費用の提供やビジネス面での壁打ち、プライシング設計の手伝いや検証の際のインタビュー手段のアドバイス、それから資本政策やドキュメンテーション、調達活動の支援なども含め、事業化に必要な全てのファンクションで支援していきます。
─対象となるのはどういうエンジニアですか。
藤井:スキルや経験年数などの明確な定義はないんですが、プロダクトを作りきる力のあるエンジニアであることと、起業にチャレンジしたい意志がある人。事業会社でプロダクトをゼロから作っていたり、CTOであったり、プロダクトオーナーとしての経験がある人は歓迎します。
川崎:作るプロダクト自体はシンプルで、着眼点やビジネスの回し方の方が重要なら、技術力はそれほど問いません。一方、もの自体がテクニカルにすごい点が価値になるプロダクトだと、やはり技術力が必要なので、そこを作りきれるかどうかという観点で見ることになります。
エンジニアとして3年相当の経験という目安はありますが、1年でぐんと成長する人もいますし、若い世代の方がアイデアをかたちにするスピードが速いことも多いので、経験年数というよりはアイデアを作りきる能力がある人に来てもらいたいです。また1人でなく、チームでの応募も対象になります。
技術的にパーフェクトでなくてもある程度できる人は対象になりますので、技術的に分からないことの相談にも乗ります。実力はあるのに「自分1人でサービスを作りきったことがないから自信がない」という人が結構いるのですが、気概と最低限の能力があるなら、自信がないと言わずに応募してほしいです。
─想定する対象プロダクトの具体的な例はありますか。
川崎:「それがなかった時代を、今では想像できない」というプロダクトがあります。古くはブラウザや検索サービスなどがそうですし、UberやAirbnbのようなシェアリングサービスもその1つです。シェアリングエコノミーというカテゴリー自体がない時代に、そういう新カテゴリーのサービスを作るのは一番大きなレベルの変革ですよね。
またネットオークションというカテゴリーをもう一度スマホ時代に最適化したメルカリや、コンテンツ配信サービスを縦画面に特化したTikTokやPococha、縦読みコミックなどのサービスも、既存領域の再解釈による最適化という点で価値を創出しています。Instagramも写真共有という仕組みだけで見れば似たものはたくさんありますが、中の文化の作り方によって全然違うプロダクトになっています。
人間の価値観やデバイスなど技術の変化に合わせた再定義だけでなく、作り込まれたプロダクトでも、もう一度まっさらから最適解を考え直したり、圧倒的に使いやすいものにしたら、実は大きな価値、爆発力が出るプロダクトもあります。Slackなんかも、チャットツールは数多くあったのに、使われる場面や拡張性を考慮して仕組みを入れることによって、全く違うツールとして発展しました。ZoomやNotionもそうですね。
「なんで、今さらそれをやるの」といわれそうなものでも、成功はあり得ます。だから僕ら審査する側も気を付けないといけない。「もしかしたらアリかも」という観点で見る必要がありますね。
藤井:だから、時代の流れやユーザーのインサイト、将来起こるであろう事象などをベースに、どのようにその人がその隠れた真実にたどり着いたのかという背景は知りたいです。
川崎:それを、できれば言語化できていなくても僕らの側で汲み取るようにもしたいですね。もちろん言葉で説明できるに越したことはないし、頭の中では論理展開が働いていてほしいですが、結果として言語化できなくても採用できるようにしたい。自分もあまり言語化が得意ではない方なので。
藤井:作りきるマインドさえあれば「この人なら言語化できずともピボットを繰り返しながら、すごいところまでたどり着けるだろう」といった期待値に投資することもあり得ます。判断はとても難しいですが、バイアスがないように審査しないといけませんね。
川崎:言葉少ない人ほど、すごく考えていたりしますからね。すごいものを作れる人ほど、思考とアウトプットする言語の速度が合わないこともある。そういう人を見逃さないようにしたいです。
アイデアと技術力を爆発させる場所と機会を提供
─これから応募するエンジニアの方々にメッセージをお願いします。
藤井:エンジニアの皆さんには、VチャレTechをアイデアを試せる場所として使ってもらいたい。共同創業者と一緒にスタートアップを始めるような気持ちで、VチャレTechを使ってもらえればと思っています。我々はアイデアと技術力を爆発させる場所と機会を提供します。
川崎:とにかく一歩目を踏み出す気がある人は、ぜひ応募してみてほしいです。エンジニアにもいろいろなタイプがいます。僕自身は結構メンタルが弱くて、社会人になりたての頃はあまりうまく説明ができず、ちょっとした言動で傷つくエンジニアでした。VチャレTechは、僕のような人も「ちょっと試しに応募してみようかな」と思ってもらえるような場所にしたい。そういう人のアイデアをかたちにすることができれば、個人的にもとても嬉しいと思っています。VチャレTechは「やってみないとわからない」アイデア歓迎のプログラムなので、とにかく面白そうなことをやっていきましょう!
「第1回VチャレTech」募集ウェブサイト
(募集期間:2023年12月20日〜2024年2月29日)
Profile:
●マネージングパートナー 川崎修平
元DeNAの取締役CTO。「Mobage」や「モバオク」を独力で3ヶ月で開発。東京大学大学院の博士課程に在学中の2002年より、DeNAにアルバイト入社し、07年には取締役に就任。規格外の発想力・開発力・スピードで同社のサービスの開発をリード。 2018年6月にDeNAの取締役を退任し、フェローに。2019年10月からデライト・ベンチャーズに入社し、ベンチャー・ビルダーのエンジニアとして、支援先のサービスの設計・開発を推進。
●マネージャー 藤井康介
2006年にソフトウェア開発会社に入社。HR事業会社、Supership、ヤフーを経て2023年よりデライト・ベンチャーズに入社。主に新規事業立ち上げを担当し、事業責任者やプロダクトマネージャーとして従事してきた。スタートアップやメガベンチャーなど様々な規模や業態での事業立ち上げ経験を活かし、現在はベンチャービルダーとしてのプロダクト開発クオリティを担保し、プロダクトの成功を支援。