2023.7.5
起業家が挑戦できる武器や環境を提供し、日本の事業創出の成功モデルに
デライト・ビルダーファンド設立 マネージングパートナー鼎談(ていだん):南場智子 × 坂東龍 × 川崎修平
デライト・ベンチャーズは2023年7月5日、DeNAからの出資を受け、15億円規模となるデライト・ビルダーファンド(ファンド名称:デライト・ベンチャーズ・ビルダー2号投資事業有限責任組合)の設立を発表しました。これはデライト・ベンチャーズとして初めてのスタートアップスタジオ機能に特化したファンドで、ベンチャー・ビルダー事業を通じて、ビジネスパーソンの事業創出・共創を加速していきます。今回、マネージングパートナーの南場智子、坂東龍、川崎修平の3人が、背景にある課題やファンド設立の目的、ベンチャー・ビルダーを通じて目指すことなど、それぞれの思いを語りました。
起業家が思いきり挑戦できる環境と武器を提供する
南場:日本にはまだまだ「起業するのは覚悟が必要」という風潮があるけれど、起業を志す人たちが、リスクを負いすぎずに起業できる社会を作りたい。そんな思いでベンチャー・ビルダー事業を立ち上げてから、4年が経ちましたね。この間ずっと、「大企業のステータスを捨てる勇気さえ持っているなら、アイデア出しから一緒にやろう!」というスタンスでやってきました。
坂東:起業したい人が思いきり挑戦できる環境と武器を提供するのが、僕らの役割ですね。
いざ起業しようと思い立っても、収入や準備時間が確保できない、アイデア決めや検証、プロダクトの開発チーム組成など、たくさんの課題があります。ベンチャー・ビルダーではこれらを解決し、ありがちな失敗のリスクをなるべく回避できるようにフレームワークを構築して、事業創出を支援しています。起業志望者は既存の勤務先に勤めながら起業に向けての検証や準備ができ、開発・運営の際には、デライト・ベンチャーズに雇用されるため、収入面での不安も軽減できます。
2019年に設立した1号ファンドでは、累計14件の独立起業とスピンアウトを実現できました。今回新しく設立したデライト・ビルダーファンドの特徴のひとつが、スタートアップスタジオに特化したファンドであること。この数年で日本でもスタートアップスタジオがいくつも立ち上がりましたが、ベンチャー・ビルダーがファンドを設立して投資するのは日本ではかなり珍しいと思います。
南場:DeNAが持つリソースを活用して起業家をサポートし、大きな事業創出を目指す。デライト・ベンチャーズのこの取り組みは、⼤企業からも注目されていますよ。現状、多くの大企業が “出島”として新規事業の立ち上げを試みてはいるけれど、ファイナンシャルインセンティブやエクイティを得ている例はあまりなく、そこから大きな事業もなかなか生まれません。これは、企業内新規事業には、「起業したい人が起業家として一人前として扱われ、そのリスクもリターンも得られる」という裁量が備わっていないからだと思います。
坂東:一般的な企業内新規事業とベンチャー・ビルダーが圧倒的に異なる点は、起業家・事業責任者のオーナーシップです。彼らは事業の意思決定に関わるオーナーシップを持つことはもちろん、その事業が成功したときのファイナンシャルリターンも得ることができます。
さらに、僕らは単に投資判断をするだけではなく、共同創業者として起業家候補の方々の課題を解決・支援します。起業は上流工程ほど、リスクや失敗要素が立ちはだかるものですからね。
つまり、「企業内でのゼロから新規事業立ち上げ」のような手厚い支援と、「スタートアップ起業」で成功した際のファイナンシャルリターン、この2つの利点を併せ持ちながら共同創業をしているというのが我々の事業の大きな特徴です。
川崎:これが事業創出の新しいスタイル、デファクトスタンダードになっていくと嬉しいですよね。トラクションが出るところまで、開発からしっかり伴走するところも、ベンチャー・ビルダーの特徴ですね。実際に「モノを作る」ということに加え、MVP(Minimum Viable Product: ユーザーが価値を感じる必要最小限のプロダクト)を作る上でどのポイントを見るべきか、早い段階でどの方向に行くべきか、どこで判断すべきかという、事業立ち上げにおける判断や、プロダクトの進め方などのノウハウを提供できるのは、大きな強みだと思います。
坂東:はい、僕らは2019年と早いタイミングからベンチャー・ビルダー事業をはじめ、多くの事業創出に伴走する中で、「なぜこの事業がダメか」など、失敗しやすいポイントを明確にする“見極め力”を磨いてきました。ステージごとにシステマティックに見極めポイントを設けているため、一定レベルの事業計画・検証モデルの質を担保することができるし、創業時によくやりがちな失敗のリスクを回避するフレームワークも構築しています。
川崎:成功も失敗も体験しているメンバーが多いですもんね。その実体験は大いに役立つのでしょうね。
「世の中を変えたいんだ!」という野心のある起業家とともに、日本を元気に
坂東:僕は今の社会や産業にある大きな課題を革新的に解決できるようなテーマで事業を作っていきたいと思っています。お二人は、どんな事業を創出していきたいと考えていますか?
川崎:僕は、その事業が利用者にとって欠かすことのできないものになる、未来の広がりを想像できるかを重視しています。目指しがいのあるものであれば領域にこだわりはないですね。「この人は何かやり遂げる」「需要を掘り起こせる」と感じられるものがいいと思います。
南場:私は最初は将来の広がりがあまり見えず狭い課題にフォーカスしていたとしてもいいと思うな。起業家に「世の中を変えたいんだ!」という野心があれば、狭くても集中⼒があるものがいい。この場合の「世の中」とは、全世界という意味ではなく、⾃分が課題を感じている特定の領域のこと、ね。
川崎:たしかに、集中⼒と突破⼒は重要ですね!
坂東:実際は、最終的に広がることは歓迎だけれど、最初はどれかに絞って検証する必要はありますよね。とはいえ、投資や事業案の判断として、チェックポイントを満たしさえすれば成功するわけではないんです。失敗には明確な理由がある一方、成功にはさまざまな要素や運、タイミングが絡むため、画一的にチェックすることは難しい。ただ、よくある失敗パターンは排除しておきたいので、フレームワークやチェックポイントを用意しています。もちろん、アイデアを型にはめたいわけではなく、例外もありますよ。いずれにしろ、課題にとことん向き合い、解決のためにしぶとく工夫を重ねる起業家とタッグを組んでやっていきたい。そこにつきます。
南場:起業家としての能力やセンスはもちろん大事だけど、何より大志が重要。世の中に自分が生きた跡を残したいという大志ある人にチャレンジしてもらいたいですね。
川崎:「上場して大きくなる」ということを目指すよりも、「自分が作った事業で、世の中を大きく変えるんだ!」ということにワクワクした気持ちを持てる人に来てもらいたいですね。結果的に、そういう人が大きい会社をつくるんじゃないかな。
南場:たしかにそうだよね。夢中になることがあって、「これが実現したらこうなるんだ!」と夢を持って没頭している人がいたら、ぜひサポートしたいです。
川崎:与えられた価値観に従って進むのではなく、自身の中から湧き出る情熱を持つ起業家が何人も出てきて、それらが蓄積され日本が元気になっていくイメージですね。
僕も、仕事を心から楽しんでいる人、最高のものにするにはどうしたらいいのかを一緒に考えていける人だったらウェルカム!夢中でやっている、何かやり遂げようという人を応援したいと思っています。
南場:とすると、ベンチャー・ビルダーは難しい職業だよね。ファンドのパフォーマンスを鑑みて投資判断をしていくわけだけど、⼈を投資判断するのは辛いこともあります。その問題に⼀番向き合っているのは坂ちゃん(マネージングパートナーの坂東龍)だよね。
坂東:そうなんです。起業支援者・共同創業者として起業をサポートする一方で、失敗のリスクはなるべく早期に回避できるように、場合によっては泣く泣く事業のストップを判断することもあります。
日本の事業創出の成功モデルとなり、スタートアップエコシステムの活性化に貢献を
南場:最近、さまざまな企業の新規事業部門やスタートアップスタジオがベンチャー・ビルダーを参考に動き出してくださっています。これはとても嬉しいですよね。
坂東:はい、最近は、多くの企業やスタートアップスタジオから参考にしたいというご相談もいただいています。そうした方々の道標となるように、早くから事業を立ち上げた我々が、結果も出しつつ、事業創出のスタイルを作っていきたいですね。
日本にはまだスタートアップスタジオや事業創出の成功モデルが少ないなかで、起業家とも市場とも向き合う日々は、試行錯誤の連続でした。でも4年続けてきて、それが今の血となり肉となっているのだと実感します。これからベンチャー・ビルダーの仕組みを通じて、日本の事業創出の拡大とスタートアップエコシステムの活性化に貢献していくことに誇りと責任を感じて、そしてワクワクしています。
川崎:エンジニアである僕の場合は、坂東さんとはまた違って、完全に現場志向。そんな僕がマネージングパートナーを引き受けたのは、投資が専門でなくでも、技術開発ができる自分だからこそ、デライト・ベンチャーズに提供できる新たな価値があるんじゃないかと思ったからなんです。根底には、「自身が面白いと思える技術を生かして、エンジニアたちが活躍できるスタートアップを増やしたい」という思いがあります。
背景にあるのは、エンジニアの採用がジョブ型に変わり、担当領域が狭くなってきている、技術の汎用性が低くなってきているという現状。これは働く側にとっては不安なことだと思うんです。だからこそ、巨大テック企業を目指すよりも、自分が面白いと思える技術で事業成長に貢献できるようなスタートアップを選べる社会になって欲しいと願っています。
南場:DeNAは、川崎修平というエンジニアによって、多くの大成功プロダクトが生み出され、成長することができました。そんな川崎修平のサポートを得られて、考え方も学べる。さらに坂ちゃんは、DeNAの新規事業創出を率いてきた素晴らしい実績の持ち主。この2人のノウハウをもらえるなんて、これから入ってくるEIRが羨ましいです! 私もこんなにいろんなもの背負ってなければ、この環境での起業にチャレンジしたいです(笑)。
川崎:そういわれると嬉しいなあ。
南場:本当のことですよ。
坂東:日本で起業するなら、デライト・ベンチャーズのベンチャー・ビルダーで事業を作るのが最も成功に近い、といわれるような立ち位置を築いていきたいですね。
実は、20年前にDeNAに入社した時、「世の中の多くの人が知っている事業を3つ立ち上げる」という目標を立てたんです。1つめは上場を果たす事業を生み出しましたが、残り2つは、ベンチャー・ビルダーから上場するようなスタートアップを生み出したいと思っています。いや、2つとは言わず、何社でも!
「あのユニコーン企業のA社もB社もC社も、デライト・ベンチャーズのベンチャー・ビルダーが輩出したんだよね」と言われるようになれれば嬉しいです。そして、起業を検討する際に、当たり前のように「デライト・ベンチャーズで起業にチャレンジしたい」と選んでもらえるようになりたいと思っています(※)。
※ベンチャー・ビルダーでは、7/14(金) 締切で、起業支援プログラム「Vチャレ」の挑戦者を募集中です。詳細は、下記をご参照ください。https://vchallenge.delight-ventures.com/
Profile:
●マネージングパートナー 南場智子
1986年、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。1990年、ハーバード・ビジネス・スクールにてMBAを取得し、1996年、マッキンゼーでパートナー(役員)に就任。1999年に株式会社ディー・エヌ・エーを設立し、現在は代表取締役会長を務める。2015年より横浜DeNAベイスターズオーナー。2019年デライト・ベンチャーズ創業、マネージングパートナー就任。著書に「不格好経営」。
●マネージングパートナー 坂東龍
2003年にDeNA入社し、広告営業やネットソリューション事業でのコンサルタントを経て、「みんなのウェディング」を立ち上げスピンアウトまで事業責任者を務める。 その後ソーシャルゲーム事業の企画部長、ペイジェント取締役、インキュベーション事業部長、SHOWROOM取締役等をつとめ、2019年10月からデライト・ベンチャーズに移籍し、ベンチャー・ビルダー の責任者として新規事業・スタートアップの創出・育成全般に尽力。
●マネージングパートナー 川崎修平
元DeNAの取締役CTO。「Mobage」や「モバオク」を独力で3ヶ月で開発。東京大学大学院の博士課程に在学中の2002年より、DeNAにアルバイト入社し、07年には取締役に就任。規格外の発想力・開発力・スピードで同社のサービスの開発をリード。 2018年6月にDeNA の取締役を退任し、フェローに。2019年10月からデライト・ベンチャーズに入社し、ベンチャー・ビルダー のエンジニアとして、支援先のサービスの設計・開発を推進。