2023.9.14
大きな課題を解こうとする起業家を、強みを活かし全力で応援していく
デライト・ベンチャーズ ベンチャー投資事業インタビュー
デライト・ベンチャーズには、シード・アーリーステージのスタートアップに投資を行うベンチャー投資事業と、社会人の起業を支援する、ベンチャー・ビルダー事業の2つの事業があります。本記事では、大きな課題解決を目指す初期のスタートアップを主な対象に投資を行う、ベンチャー投資事業でパートナーを務める永原と坂田、プリンシパルの西田、ディレクターの加古が、事業の魅力ややりがい、今後の展望などについて語ります。
VCは信じたものをかたちにする仕事。グローバル基準で次のステップを目指す
─ 皆さんが注目している投資対象や領域、どのように投資先と向き合っていきたいか聞かせてください。
永原:私は投資対象を見るとき、世の中がどのくらい変わるか、インパクトがあるか、直感的に感じられるかどうかを大切にしています。VCってある意味、信じたものをいかにかたちにしていくかという仕事でもあると思うので。頭で考えすぎるとついつい自分の都合のいいように解釈する傾向があるので、意識して客観的に物事を捉えていくことを大事にしています。
一方で、金融業であることは忘れてはいけないとも思っています。ドラえもんを作りますと言われればワクワクするけど、10年では絶対にできないことは分かっているので、10年の中でファンドとしてどうリターンを出せるかはきちんと考えたいです。
注力領域としては、個人的には広義のDX、そのビジネスを通して幸せな人の総和が増えるかどうかに興味がありますね。
坂田:デライト・ベンチャーズに2022年11月に入社するまでは、凸版印刷で、VC業務に加え、製造業とITと経営企画と事業開発、R&Dといったことを全部経験してきました。
ものづくりも、AIやITの進化によってかなり変わってきています。以前は事前にシミュレーションをしてもQCD(品質・コスト・納期)は作ってみないと分かりませんでした。でも最近は、AIがあれば実際に作ってみなくてもかなりの精度でQCDが分かる。私がIT側で学んだことを、ものづくりやディープテック領域では、まだ知らない人もいます。私が交差点の信号機のような役割を果たせたら、こうしたスタートアップの成長に価値を発揮できるかもしれないと感じています。
ディープテックも含めて新しい産業を作るときには、技術革新が必要です。イノベーションとインベンションなどとよく言いますが、技術革新なくしてイノベーションは難しいと思います。一方で「枯れた技術の水平思考(※)」って、私は大好きで。昔から使われている技術なんだけど、組み合わせることによって新しい事業革新が生まれる。それをしっかりといろいろな産業、ソリューションに当てはめるとイノベーションが起きる。そういうことがスタートアップには絶対あると考えています。だから先端技術ももちろん大事なんですが、枯れた技術の水平思考でブレークするようなディープテックにも関心を持っていますね。
※枯れた技術の水平思考:任天堂で「ゲームボーイ」などの開発に携わった故・横井軍平氏が提唱した技術理念。既存の成熟した技術を新たな領域や他分野に応用することで新たな価値を生みだすアプローチ。
西田:私は、前々職のSMBCベンチャーキャピタルにいたときに、さまざまな領域・ステージのスタートアップを多数見てきました。前職の伊藤忠テクノロジーベンチャーズでは、フォロー投資だけでなく、しっかりリードを取る方針など勉強になりました。
投資先については、関西発の大きなスタートアップがでてくるといいなと思っています。今はまだ資金調達の金額も、東京に比べると全然小さいのですが、関西でもメルカリやラクスルのような会社が出てくれば、雰囲気が変わるのではないでしょうか。こうしたスタートアップが登場すれば、関西でも起業する人が増えるんじゃないかと思います。関西には大学も多いですし、ディープテックの領域については大学に最先端の技術が眠っていたりします。そういったスタートアップにも投資していけたらと思います。
関西は商売人が多い土地柄です。黒字が良いとされる文化もあって、赤字を掘って一気に成長するというより、堅実なビジネスをする人が多いので、VCとの相性はやや悪いんですよね。オーナーマインドが結構強いこともあって、株式を他者やVCに渡すことにも、ちょっと抵抗がある人たちが多いかもしれません。とはいえ、VCから調達し関西発で上場した事例もあるので、考え方が変わっていく過渡期ではないでしょうか。
京大発の核融合スタートアップ、京都フュージョニアリングのように、100億円超の調達をした例も出てきています。当社も大阪大学発のスタートアップで、世界初のレーザー核融合商用炉の実現を目指すEX-Fusionに出資しています。関西の会社でも大きな調達をすることは可能だという考え方に、徐々になってきているのかなと思います。
加古:私はDeNA、アマゾン、メルカリと、IT系のグロース企業でマーケティングの役割を担ってきました。基本的には良いものをよりよく、多くの顧客に広める役割です。ですから、良いもの、マーケティングに値する事業を見極める力はあるかなと思います。
また、大学では農学部で植物生理学の研究をしていたこともあり、生物学への理解も活かして大学発のディープテックスタートアップを支援したいと考えています。領域としては、脱炭素、バイオテック、フード/アグリ、メディカルなどへの投資に関心を持っています。
こうした領域への理解を深め、技術を見極め、社会実装をサポートしたい。人間の食べ物や生きる環境を良くするために貢献する技術を世界に広げるために、投資家としての役割を果たせたらいいなと思っています。
起業家がいちばんに相談したいと思える存在でありたい
─投資先と向き合う中で、キャピタリストとして大切にしていることはなんですか。
坂田:私はVCとして、起業家のマインドシェアのトップでいたいという思いがあります。他方で、起業家の脳内メモリーを負の方向に使う投資家にはなりたくない。うるさい投資家ではなく、会社の成長性、ヒト・モノ・カネに対して真っ先に脳内メモリーを健全に使う起業家のカウンターパートでありたい。
そのために心掛けているのは、話しかけやすい、何でも言いやすい環境を最初に作っておくこと。全部「ノー」から入ってしまうとか、言いたいことを言うだけの投資家は、話を聞いてくれないと起業家に思われます。共感して信頼関係を作ることは、投資家と投資先との間だけでなく、ほかの協調する株主に対しても、大事にしていることです。
西田:私が大事にしているのは「早く断る」ということでしょうか。以前ファンドレイズしていて痛感したのが、変に引き延ばされるぐらいなら、出資しないと早く言ってほしいということでした。出資の可能性がないのであれば、アクションすべき候補先リストから消せるので。
起業家と面談しても投資しないケースの方がずっと多い。ですから面談の場でも、ビジネスとして否定するのではなく、ファンドの投資対象としてはちょっと難しいと早めに断ることは、ずっと意識しています。私も昔は、秘密保持契約を結んで資料だけもらうとか、QAだけやってみるようなこともありましたが、自分がお金を集めようと逆の立場になったことで、気づいたことです。
投資先については、新卒向けダイレクトリクルーティングサービスのABABAと出会ったときには「がんばって絶対に投資しよう」と思いました。最終面接を通った就活生だけが登録できるサービスなんですが、顧客である就活生が超熱狂していたのが大きかった。ABABAは3回目のピボットで今のサービスにたどり着いています。過去2回の事業がうまく行かなくても、試行錯誤を繰り返し、粘り強く行動を続けている点も評価しています。
永原:私は最近、投資家としてのお付き合い以外にも、「永原個人としてどう思うか」といった相談を受けることが増えてきたことが、ありがたいし、うれしいと感じています。
私は起業家に対して、常に謙虚でありたいと思っています。事業に四六時中向き合っているのは起業家でありそこで働くメンバーなので、一般論を振りかざしてマウントを取るような対応はしたくないですね。他の人には相談しづらいことも永原には聞ける、そんな存在になれればと思っています。
加古:私は、起業家と向き合う中で、自分が社長だったらどうするかを一緒に考えるようにしています。元々事業畑にずっといたのもあり、私ならどう事業を成長させるかなと考える癖がついているんですよね。ただ一方で、私自身はキャピタリストという立場で、社長の意思決定を尊重したいとも思っています。一歩引いて支援することも大事だと、キャピタリストの仕事をするようになって気づきました。
大きな課題を、夢中になって全力で解こうとする起業家を応援したい
─今後、どんな事業や起業家を応援していきたいですか。投資家としてのビジョンや展望なども聞かせてください。
永原:なぜこの人がこのテーマで起業しているのか、そこがリンクしているかどうかは今までも、この先もこだわっていきたいと思います。また世の中を作っていくのは若い世代だとも思っているので、自分たちの価値観だけに捉われずに、常に世の中の変化も意識していきたいですね。
西田:私は領域というよりも、どのような人に投資するかを大切にしたいですね。
坂田:領域で見ていると外す可能性がありますからね。領域を絞ってしまうと、社会や業界構造が大きく変わっているのを見逃してしまう可能性があります。特定領域しかやらないというのは、リスクが大きいと思います。
西田:私がキャピタリストになりたての頃、起業家が「コーチャブルかどうか」を見ている投資家がいました。コーチャブルでない人は、人から支援してもらえない。ひとりで強がっていても、誰も助けようと思ってくれません。この人が困ったときには助けてあげたい、とみんなが思えるかどうかは、ピンチのときには重要です。
坂田:キャピタリストとしてどうありたいかというより、人としてどうなりたいかという方が、私は先にあるかもしれません。自分たちで投資先をセレクトしてはいるものの、どんな事業や企業の応援に携わっていきたいか言語化できるほど、自分自身が成熟していないと感じています。キャピタリストという職種自体もまだ、成熟しきっていない。だからこそ、自分自身のIQ、EQを高めて、できることを増やすために最大限努力したいですね。
加古:以前あるイベントでデライト・ベンチャーズの投資先の起業家の話を聞いたときに、すごく楽しそうで、起業が彼の人生をすごく幸せにしたんだなと感じたんです。もちろん大変なことは山ほどあって、それを見せていないだけだと思いますが、自分の解きたい課題を、大きな視野で夢中になって解決しようとしている。そして楽しそうな彼の熱気にチームのみんながどんどん巻き込まれていく。そういう夢中になっている人を応援したいと思います。
それと、起業家が見ている場所はより高くてより広い方がいい。この業界、技術やイノベーションは本当にボーダレスだと思うんです。言語の違いはあっても今は簡単に翻訳できますし、世界の中で戦えます。世界的な気候変動のリスクなど、大きな課題もたくさんある中で、世の中を変えていくチャレンジをしている起業家もたくさんいます。より広い視野で大きい課題を、夢中になって、全力で解こうとしている起業家を応援したいと思っています。
Profile:
●パートナー 永原健太郎
2007年中央大学専門職大学院(ファイナンス専攻)修了後、サイバーエージェントに入社し投資部門に配属。その他、SEO部門において営業及びコンサル、メディア事業(Ameba)のマーケ部署にてメディア分析や戦略設計、マネジメントに従事。2017年に、日本政策投資銀行の投資会社DBJキャピタルにてベンチャー投資を再開。toCからtoBまで幅広く投資活動を行う。 2019年デライト・ベンチャーズの立ち上げから参画、2023年パートナー就任。
●パートナー 坂田卓也
2005年に凸版印刷へ入社し、出版、広告、玩具、ゲーム、駐車場・カーシェアリング、コミュニケーションプラットフォームなどの業界のマーケティング・新規事業支援に携わる。2014年4月より、経営企画に異動し、経営戦略部に所属。2016年より、CVCを立ち上げ、新事業創出を目的としたベンチャー投資およびM&A業務に従事。スタートアップ25社とともに事業開発に従事し、ユニファ社、コンボ社の社外取締役を務める。 2022年11月より、ベンチャーキャピタルのデライト・ベンチャーズに入社し、日本発のグローバルトップ企業の投資育成事業に尽力。2016年グロービスMBAを卒業し、現在は、グロービス講師(戦略・マーケティング)を務める。
●プリンシパル 西田光佑
2008年三井住友銀行に入行。関西の富裕層顧客を対象に資産の保全管理や運用、資産承継などに関わるサービスを提供するウェルスマネジメント業務に従事。2017年SMBCベンチャーキャピタルにて、ベンチャー投資およびハンズオン支援、バリューアップ支援等の業務に従事。2020年伊藤忠テクノロジーベンチャーズに入社。2022年デライト・ベンチャーズで関西圏を主に担当。東京から大阪へ移住し、更なる関西発スタートアップの創出を目指す。
●ディレクター/PR 加古静香
京都大学農学部卒業後、コンサルティング会社等を経て、2010年よりDeNAで新規事業立ち上げやマーケティングに携わる。その後、アマゾンジャパン、メルカリにおいてもグロース・マーケティングを担当。成長戦略策定とマーケティング施策の実行推進を得意とする。 2021年よりデライト・ベンチャーズにて起業支援・投資先のマーケティング支援、2022年よりベンチャー投資、ファンドのPR・マーケティングに携わる。 理系出身のバッググラウンドを活かし、ディープテック・大学発ベンチャーへの投資を中心に担当する。大学時代は植物生理学研究室に在籍し、C4植物(トウモロコシ)の光合成酵素・ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(PEPC)のDNAメチル化/非メチル化における発現調節機構を研究テーマとする。脱炭素、バイオテック、フード/アグリ、メディカル、サーキュラーエコノミーに特に興味あり。