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インタビュー・対談

2023.5.17

給与情報の非対称性を解消し、エンジニアのキャリア形成を後押し。熱いふたりの挑戦ストーリー

給与情報の非対称性を解消し、エンジニアのキャリア形成を後押し。熱いふたりの挑戦ストーリー

起業家×投資家 本音対談 Growing Startups vol.6
PROJECT COMP 代表取締役 田川啓介氏 × デライト・ベンチャーズ エンジニア 川崎修平

エンジニア向け給与データベースサービスを通して、エンジニアの給与情報を透明化し、雇用やキャリアの機会損失を解消する形で人材流動の促進を目指すPROJECT COMP (プロジェクトコンプ)。当サービスを利用することで、エンジニアは自身の職種やスキル等で平均年収や中央値を通じて自らの市場価値を理解し、フェアな評価やキャリアアップに繋げることができます。「Growing Startups」第6弾は、同社代表の田川啓介氏と、初期からプロダクト開発に参画しているデライト・ベンチャーズ エンジニアの川崎修平が、事業のスタートを振り返ります。

メガベンチャーで働いていた頃の課題感が、事業創出のヒントに

田川:いまの事業モデルにいたった原体験として、かつてDeNAで人事本部長を務めていた頃の経験があります。当時、僕は子会社も含めグループ会社すべての人の評価・給与を閲覧できる立場でしたし、「競合他社の給与はいくらか」「どんな職種が伸びているのか」という相場観も持っていました。一方、個人が知りうる他人の給与情報は断片的で、自分の給与の妥当性を客観的に検証する術がありませんでした。その結果、人事評価に納得できず、上司や会社に対して疑心暗鬼になるというシチュエーションにたびたび遭遇していたんです。

給与を決める人事や経営者と受け取る側との情報非対称性に不条理を感じた経験から、ユーザー参加型の給与統計データベースサービスを展開することに。まずはポジションによる給与ギャップの大きさや海外と比較しての報酬の低さに課題があるエンジニア職をターゲットにスタートしました。
PROJECT COMP 代表取締役 田川啓介氏
川崎:給与のデータベースを用いるサービスは、企画時点ではPROJECT COMPが日本初。「これが日本でリリースできたら、エンジニアのキャリアにインパクトを与えられるし、新しい文化を作ることができるかもしれない」と、ワクワクしながら参画しました。サービスを通じて、自分たちも含めてエンジニアが有意義に、そして幸せに働けるようになればいいなあと思いながら、目の前にある課題をひたすら解決してきた、という感じ。その思いに、エンジニアたちがどのぐらい共感してくれるかということにも、関心がありました。

田川:プロダクトを正式にリリースするまで、年間500~700人のエンジニアにヒアリングしましたよね。そのときから、このサービスによってエンジニアがより生きやすくなるという手応えは感じていました。

給与情報を登録してもらうにあたって留意したのは匿名性。もちろん、匿名性は確保されているけれど、エンジニアはプロの作り手であるがゆえに、「プロダクト構造を探れば、登録した情報から個人が特定されてしまうんじゃないか」という漠然とした不安があるはず。これを払拭し、安心して情報を登録してもらえる状態を作ることには十分な注意を払いました。

川崎:個人の特定性を下げることに加えて、「給与は高い方がいい会社」というふうに見えないように心がけました。何をもっていい会社とするかは給与以外にも色々な軸があるというのが大前提で、その中で最も重要な客観的指標のひとつとして給与を扱っているというスタンスなので。
デライト・ベンチャーズ エンジニア 川崎修平
田川:その点、僕はどちらかというと営業とかビジネス系の人間なので、平均年収順などランキングに走りがち。でも、それではPROJECT COMPのポリシーに反するよね……という議論を、ふたりで本当によくしましたよね。たとえば細かいところですが、年収順ではなく、データ登録数が多い企業順に並べているのも、「給与が高いほうがいい会社だというわけではない」とか「給与情報の透明化に共感してくれる企業にできるだけ還元したい」という想いで決めた部分です。

川崎:これは僕の個人的な感想だけど、ほとんどのエンジニアは今の会社の中で自分の仕事が正当に評価されているかはとても大事にしますが、市場全体を見て正当な報酬を受け取っているかどうかを重視している人は少なく感じます。エンジニアは自分が納得できる仕事ができるかを重視する傾向が強いというのもあるかと思いますが、そもそも他人の待遇は気になっても知る機会が少ないので気にしてもしょうがないという側面も大きいのかなと思ってます。

田川:そうですね、そうした人たちにも、じわっと影響はあったと思います。リリースしたところ、トップページをスクショしてTwitterに投稿してくれた方がたくさんいて、バズったんです。それまで漠然と感じていた相場観が明確になったことで、自信を持って「次のステップに進もう!」という意思決定できる土壌ができたのだと思います。実際、テックリード系のエンジニアの方から、「これまではエンジニアリングマネージャーになることには抵抗があった。でも、マネージャーとプレイヤーでは給与水準が1.5倍ほどの大きな違いがあることがPROJOECT COMPを通して分かったので、挑戦してみるのもありだと思った」という話を聞いたことがあります。

プロダクト開発を進めるに当たってのぶつかり合いも

川崎:今はこの先の成長戦略が明確になったのでやるべきことがはっきりしているけれど、それまでは、いろんな施策をやったけどサービスがスケールする方向性が見えなくてちょっと辛くなかった?

田川:データを活用したビジネスモデルが確立されるまでの間は、データ集めに奔走しつつも売上を上げなければ、という不安はありましたね。でも、タイムラインをしっかり引いていたので進んでいけました。

川崎:僕が心配だったのは、アーリーアダプターがその後、価値や驚きを見いだせず、データ更新してくれる人がいなくなることだったな。

田川:彼らに2回目も登録してもらうにはどうすればいいか、ユーザーの裾野を広げるためにはどうすればいいのかなど、考えなければいけないことは常にありますね。

川崎:辛かったことはだいたい忘れちゃいがちだけど、思えば、迷走したこともあったよね。たとえば、PROJECT COMPというサービス内でのメディアというものの位置もかなり試行錯誤したよね。データ登録してもらうためには集客は必須で、そのためのメディア施策だったけど、何本もの記事を技術観点でレビューして、YouTubeで動画もやったりして、これが違う、あれが違う……など、とても大変だった(笑)。そして毎回「これってウチでやる意味ってSEO以外に何かある?」とか「このテーマとか打ち出し方はウチのポリシーと合わない」とかいう議論が起こって。

田川:SEO対策のためだけの記事は出したくないという思いから、川崎さんにも技術観点でレビューしてもらっていましたが、あれは大変でしたよね。

川崎:ブランディングが大事である一方で、メディア運営においては綺麗ごとばかりを言って誰も見てくれなかったら意味がないので、SEO効果も高くて集客しやすいキャッチーなネタも出さなくちゃいけないし、一定量の記事を安定的に出していくためには記事の品質も妥協せざるをえない。そのあたりの葛藤はずっとあったよね。

田川:「年収1,000万円を超えるためには」という人気ワードをテーマにした記事を書いたらSEO評価は上がりやすい。でも、それは、「給料が高いほうが偉いわけではない」という僕らのポリシーに反してしまう。ポリシーを伝えるべく外注せずにすべて自分たちで記事を書けばいいかというと、それは時間的に難しい。記事を量産するか、数を絞ってクオリティを担保するか、バランスの試行錯誤がありました。

川崎:で、結局、SEOファーストで考えるのはやめよう、となった。

田川:そして徹底的にユーザーファーストに振り切ろうと方針を変えた結果として、データベースの情報の登録せずとも閲覧できる公開範囲を広げたら、複合的な要因も重なってSEO評価は上がった!

川崎:もちろんその分、登録のインセンティブは下がるので登録率は多少下がったけれど、SEOとサービス価値は上がり、結果、やりたいことに近づいたと思う。

田川:完璧な正解がないなかで、模索しつつ進めているので常に目の前に課題はありますよね。しっくりくるまで考え抜いてやりたいけど、その間にも走り続けなければいけないのは難しい。

川崎:マーケティングの位置づけとかね。メガベンチャーでは、マーケティングとプロダクトとは、部署自体も独立してそれぞれの専門性を活かして自走することが多いと思うけれど、PROJECT COMPぐらいの規模のスタートアップ、とくにSaaSにおいては、双方が密に連携し、一貫性をもって戦略立案と施策実行を行わないとおかしなことになってしまう。

田川:マーケティングとプロダクトとの接合の難しさはありますね。プロダクトのコンセプトを重視すると、マーケティング効率が下がることもある。そこは健全に悩みながらやっていく体制を作るのが重要だと感じています。

川崎:プロダクト、営業、CS、マーケティングがワンチームとなって動くのが重要。その点、自分もメガベンチャー時代の癖が抜けず、スタートアップになりきれてないのかなと、我ながらはっとすることが、ときどきあります。

田川:自分にも、メガベンチャーでの働き方、大企業の思考が良くも悪くも染み付いてしまっているから、そのことは自覚した上で、ただそこを縛られ過ぎずに目の前の課題に正面から全力でぶつかっていく必要があると思っています。

そういえば、僕、川崎さんに怒られたこともありましたね。あれは、開発が予定よりも遅れても大丈夫なように本当のデッドラインよりかなり早めの期限を伝えて、川崎さんに開発依頼をしたときのこと……。

川崎:そういうベンダーコントロールみたいなことを俺にするの?同じ船に乗った仲間として信用してくれてないの!て思ったんだよ。しかも仕様検討にまきこまなすぎだったし。

田川:はい、たしかにあれは僕が間違ってたと思ってて、反省しました。しっかり仕様に落としたものを開発チームに渡すのが依頼部署の役割だという大規模プロジェクトでの思考がまだまだ染み付いていて……。でも、あのときに叱られたのをきっかけに、情報もオープンするし、まだ言語化できないようなふわっとした課題や悩みも川崎さんにどんどん相談するようになったんです。

まるで真逆のタイプ、でも人間くさいふたりのPROJECT COMPに対する思い

川崎:田川ってさ、筋肉の塊に見えて、すごく真面目で誠実だよね。信用できるし、事業や社会のことを本気で考えているから、できる限り力になりたいって思っているよ。基本的にはオラオラなんだけど(笑)、自分の事業を始めて、さらに周囲に気を遣うようになったよね。

田川:自分の事業・会社となると、大事だからこそ、慎重になるのはたしかにありますね。

川崎:加えて、なにかを見つけたときの突破力はすごい。それゆえに「自分を制御してくれる人、軌道修正してくれる人がほしいから、しばらくPROJECT COMPに居続けてください」って最初の頃に言われたのを覚えているよ。僕自身も、その役割は務めようと意識しています。

田川:僕は意図せず横柄になってしまったり、強引に押し切ってしまったりすることがあるから、事業を成功させるためにはそこを制御してくれる人が必要だと思っています。そこで、川崎さんに「1か月に1回、1時間でいいから続けてほしい」ってお願いしたんです。実際は、1か月に1回どころか、毎週2時間もの時間をもらってますけどね(笑)。

川崎:ブレストとラップアップとNext Actionまでいつもこの1on1で議論しているし、気になるところに僕が口を出し始めると、つい長くなってしまうんだよね。

田川:気になるところの指摘は、プロダクトづくりにとても大切で非常に有難いことです。川崎さんの「なんとなくの違和感」にまで気づく鋭利な感覚は本当にすごいです。僕は発散型の思考であれもこれもやりたくなってしまうタイプ。一方、川崎さんは1つ目的を定めたらまっすぐに進んでいくタイプ。自分とは思考のクセが違うから、川崎さんとの壁打ちはとても重要なんです。

川崎:僕は発散したり、新しい金脈を掘り当てたりするのはあまり得意ではないから、実現したくなるような案を持って来てくれる人と仕事をしたいと思ってるんですよ。だから、田川とやっていてとても楽しいよ。

田川:僕がいろいろなところからキャッチしてきたものをダイレクトに川崎さんに話せば、本来やりたかったことと整合させてくれる。実は、「川崎さんに刺さることを提案したい!」という気持ちがあって、それもエネルギーになっています。

川崎:僕もほめてもらいたいタイプ(笑)。すごく頑張ってクオリティ高いものを早くあげたのに、田川があんまり褒めてくれなくて、「もっと褒めてくれよ!」と怒ったこともあったよね。

田川:僕がDeNAに新卒で入社したとき、川崎さんはすでにモバゲーをヒットさせたレジェンド。そんな人を褒めたら失礼にあたると思って控えていただけなんですけどね。でも、「褒めてくれよ!」って怒ってる川崎さんにすごく親近感を覚えて、信頼できる人だなって思いました(笑)。川崎さんはものすごいエンジニアでありながら、普通の人としての感性があるからこそ、しっくりくるまで考え抜いてくれるし、いろいろ表現してくれるんだと思っています。なんというか、人間らしい人と仕事したいと思うようになって、自然と、現メンバーもそういう人ばかりが集まりました。

川崎:やっぱり人間くさい人が好きなんだよね。僕自身も、「この人に成功して喜んでもらいたい」というのがモチベーションになっているからこそ、今日までPROJECT COMPに深く関わってきたのだと思います。もちろん、戦友と言えるような仲間、この人なら絶対大丈夫だっていうパートナーが田川に見つかって、その人としっかりやっていく方がいいと思ったら、そのときは役割を譲るのが現実的だろうけど。

田川:会社がこれから成長した後も、川崎さんは僕にとって必要な人。フェーズによって関わり方が変わってくるかもしれませんが、繋がりをゼロにしないで一緒にやっていきたいと思っています。きっと、これからもずっとラブコールを送り続けますよ(笑)。

川崎:一緒にやっていこう。求められるかぎりは。確実にPROJECT COMPはこれからどんどん伸びていくし、社会にインパクトを与えると思っています。しっかりと歩んでいけば、きっと面白いことになる。早く面白いところを見せて欲しいな!

Profile

Profile:

●株式会社PROJECT COMP 代表取締役 田川啓介
早稲田大学理工学研究科を卒業後、DeNAに新卒で入社。ECショッピングモール事業の営業や新規事業リードを経験したのち、エンジニアに転向し2年ほどゲーム開発に従事。DeNAゲーム子会社を創業し、代表に就任。その後、DeNAグループのHR本部長、マーケティング・リサーチ部門の執行役員、新規事業推進室長を経て、2020年より起業準備を始め、株式会社PROJECT COMPを創業。『給与市場を透明化して、『給与市場を透明化して、人材流動性を高める』というビジョンの下、エンジニア向け給与データベースサービス、企業向け評価報酬プラットフォームを提供。
https://project-comp.com/


●株式会社デライト・ベンチャーズ エンジニア 川崎修平
元DeNAの取締役CTO。「Mobage」や「モバオク」を独力で3ヶ月で開発。東京大学大学院の博士課程に在学中の2002年より、DeNAにアルバイト入社し、07年には取締役に就任。規格外の発想力・開発力・スピードで同社のサービスの開発をリード。 2018年6月にDeNA を退職後、2019年10月からデライト・ベンチャーズに入社し、ベンチャー・ビルダー のエンジニアとして、サービスの設計・開発をメインとして担当する。

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