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コラム

2021.10.17

<ベンチャー・ビルダー流>新規事業のアイデア段階でのチェックポイント

Ryo Bando
坂東 龍Ryo Bando
Managing Partner
<ベンチャー・ビルダー流>新規事業のアイデア段階でのチェックポイント

はじめに

新規事業の成功のためには何が重要な要素かと問われれば、推進する人(チーム)の能力・経験、マーケットの状況やタイミング、事業のエグゼキューション力などが挙げられますが、やはり「どんな新規事業アイデアを選ぶか」ということは当然大きな要素の一つでしょう。

本稿では新規事業を立ち上げる際の最初のプロセスであるIdeation(アイデア創出)について、まとめるべき提案要素やチェックポイントについてご紹介したいと思います。

前提としてアイデア出しの思考方法やフレームワークに正解はありませんし、これらの方法を参考にすると「成功するアイデアが見つかる・勝てる事業が生み出せる!」というものでもありません。しかし、これらの方法やチェックポイントを頭に入れて自問自答を繰り返すことで、アイデアを検討する時間を削減できたり、無駄な失敗をする確率を減らせることは大いに期待できるのではないかと思います。

本稿の内容は、現在までの当社のベンチャー・ビルダー(以降VB)プログラムのアイデア創出において評価している手法・項目を元に紹介していますが、当社においても常にその手法・内容については継続的に模索・ブラッシュアップしており、今後も様々な事例や思考方法を学ぶ中でその内容は変わっていく可能性がありますので、その点ご了承いただければ幸いです。

また本稿においては、いわゆる”あったら面白いのでは?”的な「価値提案型」の新規事業アイデアは対象外とし、既に市場や産業に置いて顕在化している大きなペインを解決するような「課題解決型」の事業アイデアに絞って説明させていただきます。

アイデアの整理における「課題設定」の重要性

一見良さそうに思えるアイデアがふと思い浮かび、興奮して事業アイデアを描き始める、という経験をしたことがある人は多いのでは無いでしょうか。そしてほとんどの場合、「ソリューションありき」「プロダクト内容ありき」で考え始めがちであることが多いのではないかと思います。当社のVBにおいても、初めてアイデアを提案してくる人の起案のほとんどがこのやり方です(私自身もこの思考癖があります笑)。

しかし、このやり方は失敗確率が高いと言われています。どんなに高品質でイケてるプロダクトを作ってもそれを解決する課題が存在しないとビジネスとしては成り立たないからです。課題があってはじめてその課題を解決するニーズが存在し、そのニーズを満たす優れた解決手法を提供することで、それがビジネス(売上)に繋がっていくのです。

アイデアの構成要素と明文化する流れは大まかには以下のイメージであり、この順番で一気通貫で説明できることが求められます。

課題解決型の新規事業案を生み出す際には、まず「誰のどんな課題を解決したいのか?」を決めてそこを起点に事業案を検討していくことが必要です。まずは解決すべき顕在課題を見つけることが極めて重要になります。

ソリューション案を起点に課題を逆引きで見つける方法もありますが、そのソリューションが解決しそうな課題を想像して何となく設定するものの実は課題が存在しなかったり、「そのソリューションが無いこと」自体を課題として設定したり、解決すべき課題が顕在化していないことでビジネスにならないという失敗事例が多く見られますので注意が必要です。

いずれにしても課題の実在を確認するというのは新規事業のアイデアにおいてはマストです。課題無くしてソリューション(ビジネス)なしなのです。

アイデアの構成要素とチェックポイント

課題設定が起点になるということを踏まえた上で、デライト・ベンチャーズのベンチャー・ビルダーにおいて実践している初期アイデア提案時のポイントやチェック項目をご紹介します。
■デライト・ベンチャーズのVBの初期アイデアの提案:チェック項目

1ターゲットユーザーと課題

一定の領域を決めて課題を設定するときにやりがちなことは、課題を想像したり論理的に仮説立てをすることです。これら手法も課題を設定するプロセスにおいて誤りでは無いですが、一番求められるのは既に顕在化している課題事象を見つけることです。

課題とは、とあるターゲットが目指す「ありたい姿」に向かう上で、何かしらのペインやハードルとなるものです。その困っている事象を見つけ出すことが重要です。そしてそのペインを一生懸命解決しようとするターゲットが実在しなければなりません。想像するペルソナを設定するのではなく、実在するターゲットユーザーを見つけることが重要です。身の回りの人でも良いですし、ネット上でアクションが追えるユーザーでも構いません。どんな状況・立場にある人で、どんな課題に困っているのかを解像度高く理解したいところです。

更に言うと、そのハードルを超えるためにターゲットユーザーが頑張って工数をかけているとか、コストを払っているとかの事象までセットで見つけることが求められます。そうすると顕在課題の存在を確認できますし、解決策の提供が価値提供につながり、ビジネスが成立する可能性が高くなるのです。

2課題の大きさ

全ての新規事業が規模の大きさを目指すわけでは無いと思いますが、当社はベンチャー・キャピタル(VC)のため、大きな事業成長を期待します。そのため、課題の大きさを重視しています。課題が大きくなければどんなに良いソリューションを提供したところで提供価値は大きくならず、ビジネス規模としても大きくならないからです。

課題の大きさの金額換算の算出については、いわゆるTAMとかSAMのような市場規模からシェア率を想定して算出するやり方ではなく、ターゲットユーザーの顕在課題についてそれぞれの工数・コスト、頻度、人数(社数)などをボトムアップで掛けたり足したりしてその規模を試算するものです。またその課題を解決すれば高い確率で得られるであろう逸失収益もその大きさに含んでも良いでしょう。

ちなみに当社は1,000億円以上の規模感が期待できる課題を解決するような事業に対して投資をしたいと思っています。(詳細な規模の確認は、次の検証フェーズで実施しますが、大凡の規模感はアイデア段階で把握しておき、小さければ早めにそのアイデアからは撤退することが望ましいと考えています。)

3ソリューションとその代替手段&競合に対しての優位性

大きい顕在課題が定まると、それを直接的に解決するソリューション案を考えます。課題とソリューションがズレてしまっていてはダメです。

既にその困っているターゲットユーザーがなんとかして解決しようとしている代替手段や使っているサービスがあるはずなので、それと同じ方向性の価値を提供すべきです。

「競合や代替手段はありません!」とピッチで断言する人もよく見受けられますが、投資観点で見ると競合や代替手段は存在していることが望ましいと考えています。これらが存在してビジネスとして成立しているのであれば、課題が顕在化していることの証左になるからです。本当に競合や代替手段が存在しないなら解決すべき大きな課題はないと言えるかもしれません。

競合や代替手段がいる場合に、それらよりも解決の提供価値が、質なのか量なのか速さなのかコストなのか、何かしら優位性を持つ必要があります。先行プレイヤーは機能やUXがイケてないからそこで差別化するんだという提案をされることも多いですが、いずれにしてもその課題に向き合っているターゲットユーザーが目指したい姿や課題解決に則して優位かどうかがポイントですので、ここでもやはり課題設定が何なのかに強く依存します。

また、そもそものサービスの実現性についてはアイデア段階でも目処をつけておきたいところです。明らかに法律的に厳しそう、限られた予算・期間内では到底作れそうにない、技術的に作ることが難しい、などのノックアウトファクターは早めに確認しておきたいところです。

アイデア段階では、ソリューション案は課題ほど確証が持てている必要はありません。アイデアの段階ではまだ仮説状態で大丈夫です。次の検証フェーズで、課題にソリューションがフィットするのかを検証していきます。

4なぜ今か?

「なぜこの事業を今始めるか?」というのは非常に重要です。タイミングが重要であると言うことはスタートアップに関する書籍等様々なところで言われていますし、「参入タイミングが三年前でもなく、三年後でもない理由は?」などと聞かれたこともあるでしょう?

「この領域の技術革新が起きている」「法制度が変わる(変わった)」「コロナ禍で社会情勢が変わった」などの環境の変化はその要因になるとは思いますが、より直接的な判断材料として確認したいことは顕在課題ユーザーがまさに存在しそのペインや数や機会が増加しているという事実です。困っているターゲットユーザーが何とかその課題を解決するために工数やコストを使っていることや、その課題事象がトレンドとして大きく伸びているということを示していただきたいです。

そのようなユーザーが増え始めているタイミングを見極める良い方法としては、それを解決するプレイヤー(スタートアップ)が出現しており、かつビジネスとして成り立ち始めている(儲け始めている)という事象を確認することがあります。そのようなプレイヤーが儲け始めていれば参入の良いタイミングと言えるかもしれません。また同じ課題・提供価値で攻めているプレイヤーが既にマーケットにおいて勝者になっている場合は”時、既に遅し”でしょう。

5なぜあなたか?

極論を言うと、アイデアそのものだけでは価値はなく、そのアイデアを事業として推進する人とのセットが重要であり「誰がこの事業を推進するのか?」次第で投資意欲は大きく変わります。

ターゲットユーザーと課題領域において知見や経験が深く、その解像度が高ければ事業アイデアも初期から質の高いものになりますし、「どうしてもその課題を解決したい!」という熱量が高ければ、その後の事業推進にも期待が持てます。実際にデライト・ベンチャーズのVBにおいてもこのパターンが多く、これまでの業務経験の中での課題を解決するサービスアイデアに投資していることが多いです。

よく「起業家には原体験が必要」だと言われます。私はこれが必須だとは思いませんが、少なくともその課題領域に対して高い興味を持ち知見をキャッチアップして、熱量高くその課題解決を推進できることは当然求められるでしょう。

まとめ

以上のように、新規事業のアイデア検討においては、まず実在する「課題」を特定することからはじめ、その課題が大きいことを確認し、その課題を直接的に解決するソリューションを考えて、既存の代替手段やサービスよりも優位な提供価値を届けることが重要だと説明してきました。

また前提として、「なぜ今か?」「なぜあなたか?」という要素も事業成功につながる要素であり、投資家からしても重要チェック項目です。

<アイデアのチェック項目:まとめ>
1ターゲットユーザーと課題は明確か?
2課題は大きいか?
3ソリューションとその代替手段&競合に対しての優位性はあるか?
4なぜ今か?
5なぜあなたか?

起業しませんか?

解決したい課題領域があり、大きな新規サービス・スタートアップを自ら立ち上げて行きたい方は、当社のベンチャー・ビルダープログラムを活用して弊社の支援のもと、是非チャレンジいただければと思います。

なお、2021年11月8日正午までベンチャー・ビルダー チャレンジ(略してVチャレ)と称してベンチャー・ビルダープログラムの参加者を公募しております。ご興味ありましたら応募いただければと思います!

次回はアイデアの明文化をする過程で一番難しいと思われる「課題設定」にフォーカスを絞り、より詳細にご紹介したいと思いますのでご期待ください。
■VB支援チームのメンバーです

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