2024.11.28
Bringing the Joy of Mobility to the World through New Mobility Experiences
ストリーモ 森庸太朗氏・岸川景介氏・橋本英梨加氏 × デライト・ベンチャーズ 加古静香
世界中の人の暮らし・移動を豊かにする、“新しいマイクロモビリティサービス”を提供するストリーモ。ホンダでモビリティ開発の経験を積んだモノづくりのプロフェッショナルと、総合商社出身のビジネスのプロフェッショナルがタッグを組み、試行錯誤しながら新しい移動体験の提供を目指す同社です。代表取締役CEOの森庸太朗氏、取締役CDOの岸川景介氏、取締役COOの橋本英梨加氏と、キャピタリストとして伴走する、デライト・ベンチャーズ ディレクターの加古静香が、創業の背景や製品のこだわり、目指す未来の姿などについて語ります。
立乗りの三輪電動モビリティで新しい移動体験と価値を届ける
森:「Striemo(ストリーモ)」という製品名は、Standing TRI-wheel E-Mobility(立乗りの三輪電動モビリティ)を略したものです。自転車やバイクのように、多くの人に親しまれる乗り物にしたいという思いから、あえてシンプルな名前にしました。
橋本:実は、ストリーモにはもう1つ、ダブルミーニングもあります。「ちょっとした移動を、小さな旅(スモールトリップ)に変えたい」という思いも込め、Small tripsとe-mobilityの頭文字を取って「Striemo」とも呼べるんです。
森:乗り物はこれまで、いかに早く移動するかを求めて発展してきました。でも、目的地がなく散歩するだけでも気分をリフレッシュできるし、発見や気付きもある。そんな体験と価値を届けたいと思っています。
─これからは自動運転の普及が進み、「移動中の時間をどう過ごすか」が主題になっていくと思いますが、ストリーモは「移動そのものを楽しむ」ことにも価値を置いています。製品名に「スモールトリップ」を込めたのも、旅好きな森さんらしいですね。学生時代には、自転車でスリランカを一周したことがあるのだとか?
森:はい。車移動では感じられない風や匂いを全身で感じることができました。紅茶畑を走り抜けたり、古刹を訪ねたり、野生の象の迫力に驚いたり、南の海でのんびりと泳いだり。家庭から漂うカレーの香りや、南国フルーツの甘い香り……。移動の楽しさを感じた原体験のひとつです。
森:ストリーモで移動中、ふと立ち止まって小さな虫を見つけたり、それを写真で撮ってスマホで調べたりするのが楽しいんですよ。
加古:私は子どもの保育園の送迎にストリーモを使っています。私が乗ってゆっくり進み、傍らで子どもが歩くというバランスがちょうど良くて。低速でも安定していて、ふらつかないので安心です。また、スピードを上げるとちょっとした買い物が徒歩よりも気軽に出かけられ、行動範囲が広がりました。
橋本:ストリーモは、速度設定が6km/h(早歩き)、12km/h(自転車)、20km/h(駅伝選手並み)と3段階あり、ゆっくりとした移動からスピーディーな移動まで対応しています。この「自分に合ったスピードを選べる」という特長を、加古さんはうまく活用されていますね!
森:動く歩道に乗っているような感覚で移動できるのも、ストリーモの特徴です。ボタンひとつで気軽に止まったり、再び走り出したりできるので、ふとした瞬間に、景色に目を留めることができるんです。
岸川:例えば自転車で「止まろう」と思うと、ふらふらしないようバランスをとることに注意が向いてしまうのですが、ストリーモはこうした気遣いなく停車できるので、自然な景色を楽しむ余裕が生まれるんですよ。
ーーまさに人に寄り添った設計ですね。ところで、森さんは本田技術研究所で世界初の技術を量産化し、社長賞を受賞されていますよね。
森:はい。北米では、4輪のバギーが農場や牧場などで使われているのですが、太いタイヤかつ4輪駆動なのでハンドルが重く、腕力がないと乗りこなすのが困難。そこで、より多くの人が使えるようにするために専用の電動パワステを開発、量産化を実現しました。
ーーほかにもレース用バイクの開発や、ダカールラリーでの開発主導など、多岐にわたる経験をお持ちです。今の開発に影響を与えたプロジェクトはありますか?
森:どれも影響していますが、なかでも、オフロードバイクの開発経験は大きかったですね。プロのライダーからフィードバックされる「接地感がない」「軽快感が足りない」といった感覚を物理現象に置き換えて考え、対策を図面に反映していく過程は、とても勉強になりました。
ーー同じくホンダの技術者として、岸川さんのことはよくご存知だったんですか?
森:名前は知っていましたが、オフロードで泥だらけの現場で働く私と、アスファルトの上で働く岸川とは、まるで正反対の存在だと思っていました。初めて一緒に仕事をしたのは、新規事業プロジェクト。モビリティに関する調査を世界中で行い、最終的にペインが深いインドでフィンテック領域にフォーカスした新規事業開発を行いました。
岸川:「モビリティには生活を変える力がある!」と実感したプロジェクトだったよね。バイクが1台あるだけで、働きに行ける範囲が広がったり、親を病院に連れていけたり、生活の質が向上する。そうした現状を目の当たりにして、「課題から事業を考える」ということを学びました。
ーー森さんと同様に、岸川さんはMotoGPのマシン設計担当で、チームを世界チャンピオンに導いています。大企業とスタートアップのモノづくりの違いは何ですか?
岸川:モビリティは人の命に直接関わるものなので、その責任の重さに変わりはありません。ただ、弊社ではさまざまな分野から異なる経験を持つ人たちが集まり、それぞれの知見を融合してモノづくりをしていることが、とても刺激になっています。大企業は長年培ってきた文化から外れるのが難しいこともありますが、スタートアップでは多様な経験を取り入れられる点が大きな強みだと思います。
共鳴するビジョンがチームをつなぐ
ーー技術者として経験豊富なお二人が出会い、ストリーモの開発が始まりました。力強いスタートですね。
森:いやいや、技術者二人で始めたので、市場や顧客についての理解が足りなくて。「とにかく作ろう!」という情熱と「果たして顧客はいるのか?」という疑問の間で、ぐるぐると堂々巡りしていました。
岸川: 転機を迎えたのが、HAX Tokyo(ハードウェアに特化したアクセラレータープログラム)に参加して、橋本と出会えたことです。
ーー住友商事でシリコンバレーのベンチャーキャピタルや技術ベンチャーの投資に関わっていた橋本さんが大企業をやめ、技術者二人と組む決断をした理由は何だったんでしょう? それまでの環境と大きく異なりますよね?
橋本:もともと、日本の技術が大好きだったんです。日本には優れた技術があるのにも関わらず、iPhoneなどの海外製品に押されている現状も歯がゆくて……。「日本発の技術で世界を豊かにできるはずだ」という思いで住友商事に入社。エッジの効いたテクノロジーを世に出すお⼿伝いをするなかで、ますますその思いを強くしました。
ーーそれでスタートアップへの関心が高まり、住友商事時代にHAX Tokyoに参加されたんですね。
橋本:はい。約3ヶ月のプログラムの中で、ハンズオンで森、岸川とチームを組み、大企業を訪問したり、試乗会を開いたりと、まさに一緒に走り抜ける日々を過ごしました。そして、森のピッチを聞いたとき、「これはいける!」と直感。HAX Tokyoが終わる前に、「仲間になりたい」という自分の思いを二人に伝えようと心に決めていました。
森:お互いに、「ちょっと話があるんですけど」って(笑)。実は、僕らも「HAX Tokyoが終わる前に橋本を仲間に誘わなければ!」と思っていたんですよ。
加古:満を持してのプロポーズですね(笑)。皆さんは価値観は共有しているけれど、役割も個性も違って、その違いが素晴らしいバランスで噛み合っていると感じています。本当にいいチームですよね。
橋本:コミュニケーションがとりやすいし、なにより、森のビジョンは自然と応援したくなるんです。日常の景色を大切にしたいとか、移動を楽しんでほしいという、彼の人柄があってこそのビジョンだからでしょうね。
デライト・ベンチャーズと出会って視座が上がった
加古:今年2024年の5月に既存株主のVCからご紹介を受けて事業のピッチを伺い、その後乗ってみようとリアルでお会いしました。正直、最初お話を聞いたときは「立乗りのモビリティってシニアには不安定で危ない乗り物かもしれない」と思っていたんです。ところが、実際に乗ってみると、地面に吸い付くような安定感があり、低重心でとても乗りやすくて驚きました。
試乗に同行したキャピタリストの牛尾正人は、もともと大学でロケットの研究をしていて、前職のDeNAでは自動運転の事業に関わっていたほどの乗り物好きなのですが、彼も「絶対に投資したい!」と惚れ込むほど。これは世界でも通用すると確信しましたね。
一般的にピッチは社長がひとりでプレゼンすることが多いのですが、皆さんはそれぞれに役割分担をして話しているのが印象的でした。森さんが事業ビジョン、岸川さんが競合プロダクトとの違い、橋本さんが事業の可能性と、それぞれが思いを込めて話していて。その中で、皆さんから「乗り物の中心には常に人がいるべきだ」という設計の思想も伝わり、チームが一丸となっているからこそ生まれるクオリティなんだと実感しました。
橋本:私たちもすごく熱くなりましたが、加古さんも質問をたくさん投げかけてくださいましたよね。ストリーモの魅力をどう伝えるかについて深掘りしていただき、お互いの理解が深まるのを感じました。
岸川:当初の1時間の予定が、気づけば2時間以上。ここまで寄り添っていただける姿勢が本当に嬉しかったです。
加古:皆さんが大企業を飛び出して、少数精鋭のチームで世界を目指す姿を見て、世界中で愛される未来が自然とイメージできました。もちろん、投資前には、実際に市場で受け入れられるのか、模倣品などのリスクに対応できるかなど徹底的に検証しましたよ。最終的に日本では四輪と二輪の間のマイクロモビリティ市場が未開拓で、世界的に高齢化社会が拡大していくなかで、この安定性の高いモビリティがシニア層から若者までユニバーサルに受け入れられる可能性は非常に大きいと思いました。
そして、「日本のものづくりの知を集めた、まるで“オーシャンズ11”のようなスーパーチームに私たちが投資しなければ、誰が投資するんだ!」と、マネージングパートナーの南場(智子)を含め投資検討会で長い起案書でプレゼン、最終的に投資の意思決定を行いました。
岸川 :あらためて聞くと、また感動してしまいます(笑)。
橋本:私たちも「加古さんと一緒に事業を進めていけたら」と心から思いました。今、投資家としての関わりというよりも、一緒に走る仲間のように感じています。
森:デライト・ベンチャーズと出会ってから、私たちの視座も一気に上がりました。
橋本:それまでは、市況が厳しかったこともあり、黒字化を目指す安定したプランばかりを考えていました。でも、それでは私たちが目指す「移動体験の提供」とズレてしまう。悩んでいたとき、加古さんや浅子(信太郎)さんが「海外展開も見据えてもっと果敢に挑戦しよう」とアドバイスくださり、富士山のふもとにいた私たちが、エベレストを目指すように視界が広がったんです。加古さんと話していると「こんな方法もあるんだ」「こんな未来も描けるんだ」とワクワクして、チームの成長がますます楽しみになります。
岸川:加古さんをはじめ、浅子さんや南場さんが何度も「どこを目指しているのか?」と、真剣に問いかけてくれたのもありがたかったです。
橋本:投資後も、マーケティングやPR、目標数字の持ち方、採用まで様々なアドバイス、サポートをいただき、私たちはそれを「加古さんシャワー」と呼んでます(笑)。
加古 :キャピタリストになる前は、私はマーケターとして、素晴らしい商品を多くの人に伝える役割を持って仕事に取り組んできました。ストリーモという素晴らしいプロダクトに出会って、これを今後もより多くの人に知っていただく発信を支援したいと思っています。
橋本:「発信」はまさに、私たちに欠けていた部分です。プロダクトアウトの会社として良いものを作り出してきましたが、それをどう売り出すか、事業をどう成長させるかはプロの力が必要だと感じていました。プロのマーケターであり、経営視点を持つ投資家として加古さんが加わり、アドバイスを得られるようになったことで、具体的な道筋が見えたのは大きな進展です。
加古:「すでに素晴らしい機能を持つプロダクトの体験をこれから作り上げていく」というフェーズであることは、製品力の高いストリーモの強みです。アメリカに長く住む浅子も、「これから世界でどう売っていくか」を強く意識しています。単に便利なだけでなく、楽しい体験を届けていきたいですね。
岸川:かつて、「やりたい」という気持ちは強かったものの、「どうすればいい?」と迷っていた部分が大きかったのですが、今はデライト・ベンチャーズの皆さんと話すたびに、ビジョンが鮮明になり、方向性がクリアになっています。
ストリーモを、世の中のスタンダードに
森:今まで「乗る体験」そのものを中心に作り上げてきましたが、今後は「乗る前」や「乗った後」、さらには「購入した瞬間」からも感動を感じてもらえるような体験を提供していきたいですね。ストリーモが新しいスモールトリップのスタンダードになれたらと思っています。
橋本:特別な用事がなくても、ふらっと出かける気分転換の相棒になれたら素敵です。たとえば、お気に入りの場所や景色が増えるたびに、その思い出が積み重なっていくような、そんなプラットフォームも作りたいと考えています。
森:写真を撮って記録したり、気に入った場所をシェアしたりするのも楽しそうじゃない? たとえば、「こんな場所に小さなお地蔵さんを見つけたよ!」といった小さな発見を共有できる仕掛けがあると面白いですね。
橋本:もはや、「ストリーモ」じゃなくて、「ストロール(散歩)」かもしれませんね(笑)。
岸川:ハードウェアだけ、ソフトウェアだけではなく、私たちだからこそ作れる複合的な体験を目指したいです。そして、その体験を一緒に作る仲間も募集中です。例えば、プロジェクトマネージャーやマーケター、エンジニア、バックオフィスなど、いろんな専門分野の方々とタッグを組みたいですね。
加古:海外展開に向けてどう体制を整えるか、そこも大きなチャレンジですね。
森:そうですね。もともと、マイクロモビリティが普及しているフランスでの事業展開を前提としていたこともあり、世界に出ていくことは、ごく自然な選択肢になっています。
橋本:月額9,500円から気軽に楽しめるサブスクリプションもスタートします。もっと多くの方に、日常の中でストリーモを活用してもらえるサービスを目指しています。
森:スモールトリップの感動や、移動の楽しさ、そして、その場で感じる新しい体験を世界に届けたい。それが、少しでも多くの人々の生活を豊かにできたら嬉しいです。
Profile:
●株式会社ストリーモ 代表取締役 CEO 森庸太朗氏
1980年東京生まれ。東京工業大学理工学研究科制御システム工学専攻修了。博士(工学)。在学中はIEEE ICRA SERVICE ROBOTICS AWARDなど国内外で賞を受賞。本田技術研究所入社、2輪R&D部門にて、世界初技術の量産化にて2度の社長賞受賞の後、レース用自転車、オフロードバイクの研究開発に従事。23年ぶりの参戦となったダカールラリーでは開発を主導し、フルモデルチェンジを行った2年目にデビューウインを達成。その後、自立する2輪車、3輪車の研究、インドでの新事業、経営企画室での新規事業開発を経て、技術を自らの手で社会実装していきたいという思いから、Hondaの新事業創出プログラム“イグニッション”を通じ起業。21年8月にストリーモを設立。
https://striemo.com/
●株式会社ストリーモ 取締役CDO 岸川景介氏
2001年名古屋大学大学院機械工学専攻卒業。同年本田技術研究所に入社。2輪R&D部門で車体設計として大型モーターサイクルの開発に従事。その後6年間レース部門に異動してMotoGPマシンの設計を担当し、世界チャンピオンを獲得。世界一になるための厳しさを経験。リーマンショック後量産開発に復帰し、大型フラッグシップモデルから小型EVまで幅広く開発に従事し、開発の上流から下流まで多くのことを経験。また、製品だけでなくインドの新規事業立ち上げの責任者としてビジネス開発にも従事。同新規事業開発で森と共にプロジェクトを推進し、新しい価値を世に出すことに挑戦。その後、森の呼びかけに応じストリーモの立ち上げに参画し、最高のプロダクトをお客様にお届けするため、製造領域を主として担当。
●株式会社ストリーモ 取締役COO 橋本英梨加氏
2010年、慶應義塾大学理工学部物理情報工学科卒。同年、住友商事に入社。営業職として、IT・デジタル分野における海外スタートアップの国内新規事業開拓およびマーケティング業務に従事。2年間に渡り、米シリコンバレーのベンチャーキャピタルへ出向。帰国後、国内システムインテグレーターへの出向を経て、国内ハードウェアスタートアップアクセラレーター「HAX Tokyo」の立ち上げ・運営を行う。22年春より現職。スタートアップー大企業間の事業開発や投資業務、実装経験を活かし、取締役COOとして営業•事業開発、ファイナンス、オペレーションを担う。
●デライト・ベンチャーズ ディレクター 加古静香
京都大学農学部卒業後、コンサルティング会社等を経て、2010年よりDeNAで新規事業立ち上げやマーケティングに携わる。その後、アマゾンジャパン、メルカリにおいてもグロース・マーケティングを担当。成長戦略策定とマーケティング施策の実行推進を得意とする。 2021年よりデライト・ベンチャーズにて起業支援・投資先のマーケティング支援、2022年よりベンチャー投資、ファンドのPR・マーケティングに携わる。 理系出身のバッググラウンドを活かし、ディープテック・大学発ベンチャーへの投資を中心に担当する。脱炭素、バイオテック、フード/アグリ、メディカル、サーキュラーエコノミーに特に興味あり。