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2023.1.9

コーヒー業界を革新し、すべての生産者に希望の光を。全世界を舞台とする起業家の挑戦

コーヒー業界を革新し、すべての生産者に希望の光を。全世界を舞台とする起業家の挑戦

起業家×投資家 本音対談 Growing Startups vol.4
TYPICA 代表取締役 後藤将 氏 × デライト・ベンチャーズ プリンシパル 永原健太郎

コーヒー生産者とロースターが生豆をダイレクトトレードできる世界最大のオンラインプラットフォームを展開する「TYPICA」。コーヒーの流通におけるあらゆるプロセスでサスティナビリティを追求するその道のりには、さまざまなドラマがありました。起業家の情熱や事業成長にかける想いを投資家とともに振り返る「Growing Startups」第4弾では、「TYPICA」の後藤将代表と、デライト・ベンチャーズのキャピタリスト・永原健太郎が、全力疾走したシード期を振り返ります。

運命的な生産者との出会いから、導かれるように創業へ

永原:TYPICAを正式にローンチして2年目に入り、世界71ヵ国、約10,000軒の生産者とロースターのネットワークを有するプラットフォームに成長しています。さらに、サブスクリプションTYPICA CLUB(ダイレクトトレードされたコーヒー生豆が各地のロースターによって焙煎され、消費者のもとへ届く)の募集も始まりました。「TYPICA」を通して、コーヒーを取り巻く世界が大きく変わっていきますね。

後藤:コーヒーロースター「HOOP」を運営していた頃から、商社さんよりいただくリストの中から生豆を選んで買うことに違和感を覚えていたんです。スペシャルティコーヒーとは本来、ダイレクトトレードを基本としていて、個性豊かな生産者・産地から、長期的に取引することがコンセプトの根幹にあるはず。ならば「自分たちで生産者とダイレクトに取引したい!」と、キューバに飛び、純粋な気持ちでコーヒー豆を育てる素晴らしい生産者に出会えたことが、今に繋がっています。

奇跡的に繋がったキューバの農園「ダニエル・ベラ・フィンカ」に足を運んで試行錯誤していたときのこと。滞在中に大きなハリケーンに遭い、30年かけて育んできた農園が全壊してしまったんです。そんな一大事にも関わらず、農園主のダニエルは僕らを温かくもてなそうとしてくれた。「世界中に、彼のような純粋な生産者がいるんだろうな」とハッとしましたよ。以来、いちロースターとして彼らと取引するのではなく、「彼らが直接、ロースターに販売できる“場”を提供したい」と意識するようになったんです。
TYPICA Holdings株式会社 代表取締役 後藤将 氏
永原:農園主との出会い、ハリケーン・・・・・・まるで運命に導かれるように、さまざまなものが繋がっていったんですね。

後藤:彼らは素晴らしい生豆を育てているし、世界中で1日約25億杯ものコーヒーが飲まれているにもかかわらず、半数近くが貧困状態にあります。その理由は、コーヒー豆の価格が国際相場に左右されているから。しかも、その相場が乱高下している要因には投機マネーも関わっています。それを知ったとき、自分で作ったものの価格を自分で決められへん、第三者のギャンブルのために人生を振り回されるなんて、めちゃくちゃな話やと思いました。

同時に、生豆の取引は3,000万円以上もする1コンテナ(18トン)単位、しかも完全前払い制で、船で輸送する間に豆が劣化したとしても、何の補償もない。これでは、とても小規模ロースターが直接取引などできるはずもなく、大手商社から買うしか手段がありません。こうしたさまざまな問題を解決したい、取り組む意義があると考えたのが「TYPICA」の始まりです。

永原:麻袋1袋(60kg)から生豆のダイレクトトレードが可能になるのはとても画期的なことですよね。世界のさまざまな農園の豆を直接流通させることができるし、売り手も買い手もよりフェアな価格で豆を購入できるようになります。
2017年、共同創業者の山田彩音(右から2人目)らとキューバのダニエル・ベラ・フィンカにて
後藤:とはいえ、「このビジネス、めちゃくちゃお金が要るな」ということは容易に想像ができました。そこで、スタートアップを経営していた友人に相談したところ、「資金はベンチャーキャピタルのエクイティ(株主資本)で調達するのがいい」と教えてくれたんです。友人を介してデライト・ベンチャーズに出会えたことで、ビジネスの可能性が広がりました。

永原:もともと、私もコーヒー市場には興味があって、何件か投資検討をしていたのですが、どれも「美味しい豆を届けます」というマーケティングが中心のビジネスモデルでした。「コーヒー豆の新たな流通の仕組みを作る」という話を聞いて、「世界を変える可能性がある。求めていたのはこれだ!」と思い、後藤さんにご連絡させていただきました。
株式会社デライト・ベンチャーズ プリンシパル 永原健太郎
後藤:僕はすでに拠点をオランダに移していたので、初対面はZoomでしたね。

永原:今まで私が接してきた起業家とは違う背景が後藤さんにはたくさんあって、周辺情報を整理して理解するのにちょっと苦労した記憶があります。Zoomごしに、この人、どんな人なんだろう?って・・・・・・。

後藤:今、そうやってオブラートに包んで言ってくれてますけど、最初は詐欺師やと思っていたんでしょ?(笑)

永原:いや、はい、実は(笑)。本当に信用していいのかなって。投資するとなるとLP(リミテッドパートナー)への説明責任もありますからね。その後、後藤さんが帰国されたときにお会いした際も「ぶっちゃけ不安です」と言ってしまいましたが、会話を重ねて、この人は信頼できる方だと確信しました。

後藤:僕は永原さんに初めてお会いしたとき、めっちゃ紳士的な人やなって思いましたよ。「TYPICA」の構想に誠実に向き合ってくれましたしね。当時、7社ほどVC(ベンチャーキャピタル)の方にお会いしたんですが、永原さんが提示してくれた条件はあきらかに他社と違っていたし、DeNA発のVCであることや、南場智子さんがマネージングパートナーであるという社会的な信頼も、突出していました。

信念をもってやり続けたら、信じてくれる人の熱量と数が変わった

永原:すでに約4,000軒のロースターがTYPICAに登録しています。ロースターと生産者を繋ぐ上で、苦労したのはどんなことですか?

後藤:共同創業者の山田彩音は長年コーヒー業界にいましたので、18年間業界での認知や信頼もそれなりにありましたが、それでも、ロースターから信じてもらうまでめちゃくちゃ大変でした。「言ってることはすごいけれど、本当にできるの?」って。だから、「経験や口コミに勝るものはなし!」と、とにかくコーヒー豆を買ってもらえる状況をめざしました。全国7都市で受注会を開いて、まだプラットフォームがない状態から商談して、紙の資料を渡して、アナログで受注して・・・・・・。

その後、商談で予約してくれたロースターのもとにクオリティの高い生豆がちゃんと届いたことで、みんなが信じてくれた。もちろん、シード期にデライト・ベンチャーズから出資していただいたおかげで、信用度は大きく高まりました。やがてプラットフォームができて、テレビ番組でも取り上げられて、「一回は信じてやってみよう」とトライしてくれた人が、またひとり、またひとりと増えていったんです。

永原:受注会のキャラバンをしていた頃、ちょうど出資のためのプレゼンをしていましたよね。この間に、後藤さんの心境の変化はありましたか?

後藤:僕らは一貫して、創業してからなにも変わってないんですよ。「なんでみんな信じてくれへんのかな」「これ、絶対いけるのに、何で分からへんのやろ」ってずっと思っていた。変わったのは、信じてくれる人の熱量と数。本当に信念を持ってやり続けたら、自分が変わらなくても、ちゃんと周りが信じて変わってくれるんだということを、実感しましたね。

永原:僕らは「TYPICA」に可能性を見出していたけれど、ファイナンスに苦労したタイミングもありました。どうやって乗り越えていくか、かなり話しましたね。後藤さんと電話で険悪になったこともありましたが、今となってはいい思い出の一つです。

後藤:電話で険悪になった日のこと、覚えてますよ。事業としては約束したことを実行したい、しかし資金調達が思うように進まず、ファイナンスの知識も投資家と差があり折り合いをつけるのが大変でした。そのような状況でも最後まで本気で僕らのことを信じて向き合ってくれた、デライト・ベンチャーズには本当に感謝していますし、選んで本当に良かったと思っています。

永原:そんなこともあったから、より信頼しあえたし、本気で向き合えたと思っています。

後藤:そうですね。さらに、永原さんに勧められて参加したICCサミットは、潮目を変える大きなきっかけとなりました。最初は「そんなの準備も時間かかるし、ただでさえ忙しいから無理や!」と思ってたんですけど、永原さんが「今後のために、絶対に出ておいたほうがいいから」って強く勧めてくれて。出るからには一番になろうと決めて臨んだら優勝できて、そこから流れが変わりました。

グローバルなビジネスを展開し、サスティナブルな世の中に

永原:出資の決め手は、日本に閉じないグローバルなビジネスに向かうのが明らかだったこと。グローバルマーケットの本質や、スペシャルティコーヒーが現状でどんなふうに流通し、成長しているのか、そこに「TYPICA」が入ることでどのぐらいインパクトを出せるのか、本当にグローバルで価値が生み出せるかなどを、マネージングパートナーの渡辺大にも理解してもらい、出資が決まりました。

後藤:当初、ビジネス展開は日本だけで考えていたんですよ。最初から世界に出ていくのは無理やって思っていたんです。今思えば先入観だったのですが、まずはマザーズに上場して、そこからグローバルに展開していくものだと考えていました。

ところが、南場さんと話したときに、「オランダに住んでるんだし、さっそく世界に展開してみたら?」「自分たちも応援するし、資金の問題があるならいろんな投資家の方を紹介するから」と言ってくれたんですよね。そこであらためて考えてみたら、確かに原材料のクオリティーは世界共通だし、日本は美食の国として世界的な信頼がある。だったら通貨と言語の問題だけ乗り越えたら、すぐに世界で挑戦できるんじゃないかと、思い始めました。

それから半年後、ビジネス展開は71カ国に。2023年3月にはアメリカでも事業を開始します。南場さんに背中を押していただいたことで「TYPICA」は劇的にグローバル企業に変わりましたね。結果的に他国のロースターとの取引が増えていることは日本のロースターの信頼向上にも繋がるので、グローバルに展開して本当によかったと思っています。大変なのは体だけです。

永原:体と、資金もですよね(笑)。「やりたいのは分かるんだけど、資金が集まるまでちょっと待ってよ」「いや、南場さんはグローバルに行くべしと言ったでしょ」という会話が懐かしいです。葛藤(かっとう)がありつつも、もう生産者とも約束しているから止めるわけにはいかない。お金を集めるしかないなと思っていました。常に動いてましたよね。

後藤:そうですね、ファイナンシャルの面でも、連携できてとても心強かったです。

永原:いろんな起業家がいるけど、後藤さんは、言ったことに対する責任を果たそうという意識がとても高いですよ。その原動力はなんですか?

後藤:それは生産者との約束です。世界のコーヒー生産者の7割が小規模、うち半分が貧困状態なんですが、ダイレクトトレードができることで、生活がめっちゃよくなるんですよ。間接費用が減らせるので、今までと同じ仕事をして、3~30倍の価格で売れるんです。彼らの素晴らしいコーヒーを世界に流通させようと約束しているから、嘘をつくことはできない。このことは、僕らの大きなモチベーションになっています。

永原:誰が、いくらで入札したかが見えない状態で進むブラインドオークション(TYPICAのブラインドオークションは、一定の条件を満たしたコーヒーに限り出品が可能)も始めてよかったですよね。他の人の値づけに左右されず、価格競争になりづらいから、買い手は市場価格ではなく、自らの評価基準に基づいて購入価格を決める。それが生産者に還元されるのが素晴らしい。

後藤:経済の本質は、誰かに喜びを与えたり、痛みを取り除いたりする仕組みをつくることが大前提。ビジネスモデルありきではなく、志ありき。だからこそ、諦めずに進めていけるのだと思います。僕らは何に挑戦するのかを決めて起業しているので、その本質がぶれてしまったら意味がないと、つねづね思っています。スタートアップでは、コロコロ自分を変えることは絶対あってはならない。そもそも、それって挑戦じゃないですから。
2022年10月、東京で開かれた第一回年次総会にて。世界中22ヶ国の生産者が集まった
永原:生産地の反応はどうですか?

後藤:僕らが現地に到着すると、サンプルを手にした生産者が「自分たちもこれを売りたい!」って、たくさん集まってくることがありますよ。当然ですよね。今までは大変な思いをしてコンテナに積んだ豆を誰に届けられるかもわからない状態で渡すしかなく、収入もわずかだった。自分で精製して販売できれば、生活が豊かになります。
永原:生産者もやる気がでるから、ますますクオリティーがあがりますよね。

後藤:めざすのは、一貫して2030年世界一。アラビカ種の33%、4,000億円分の生豆がダイレクトトレードされるマーケットに育てること。30万軒の小規模生産者、約200万人の貧困を解決でき、生活や人生が豊かになる未来を追求しています。

もし、2030年までにそうならなければ、世の中(ロースター、生産者)が求めてない、僕達の思い込みだったということ。でも、美味しいコーヒーのサステナビリティを高めるために、誰もがダイレクトトレードできるマーケットになったほうがいいのは中長期的な視点では間違いないことなんです。その信念をどこまでもぶらさずに、2030年まで走り続けます!

永原:今後、「TYPICA」のファンも増えて、僕らの役目も変わっていくと思います。でも、起業家と一緒に世界を広げていく、グローバル企業を作っていく挑戦は、僕らにとってもワクワクすること。創業時を知る一人として、これからの展開も楽しみにしています。

Profile

Profile:

⁠●TYPICA Holdings株式会社 代表取締役 後藤将 氏
1984年 大阪府生まれ。19歳で起業し、2009年ソーシャル・イノベーションを目的とした事業を開始。2012年、ダボス会議より、世界を担うU33日本代表に選出される。2014年、スペシャルティコーヒーの潮流にイノベーションの可能性を見出し、コーヒービジネスを行う「HOOP」の立ちあげに参画。2019年、「TYPICA」を設立。2021年、流通DXにより、小規模コーヒー生産者とロースターが、麻袋一袋単位から生豆をダイレクトに取引できる世界初のオンラインプラットフォーム、TYPICAをリリース。
https://typica.jp/

⁠●株式会社デライト・ベンチャーズ プリンシパル 永原健太郎
⁠1981年生まれ。新卒でサイバーエージェントに入社。投資部門にてベンチャー投資、SEO部門において営業及びコンサル、メディア事業(Ameba)のマーケ部署にてメディア分析や戦略設計、マネジメントに従事。2017年、日本政策投資銀行の投資会社DBJキャピタルにてベンチャー投資を再開。2019年デライト・ベンチャーズの立ち上げから参画。ベンチャー投資の責任者を務める。

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