2024.1.11
Revolutionizing the Construction Industry with the Power of IT. An Entrepreneur's Challenge to DX a Legacy Industry
クラフトバンク 韓英志 氏 × 渡辺大 デライト・ベンチャーズ オウンドメディア対談
建設業界の本質的な課題解決に取り組み、工事の受発注マッチングサービスを提供するクラフトバンク。試行錯誤しながらも巨大市場でのDX推進に挑む韓英志代表取締役、執行役員CPOの武田源生氏、創成期を支えたマネージングパートナーの渡辺大が、建設業界の課題や、創業の背景、起業後の困難をどう乗り越えてきたかについて語ります。
ITの力で建設業界に革命を起こす!
渡辺:クラフトバンクの登場により、DX推進の最後のフロンティアともいわれる建設業界に変革がもたらされています。大学院で建築を学んだ後、国内外で多くの新規事業開発や経営に携わり、リクルート時代はドイツで現地企業の買収に成功した韓さんならではの経験が生かされているのでしょうね。
韓:建築学科だった学生時代のプロジェクトで工事現場でに入ってお手伝いしたことがあり、親方によく怒られていました。でも、彼らはずば抜けた技術を持っていて、とても勉強になりました。結局、自分には建築のセンスがないと悟り、異業界(リクルートでの住宅情報事業)に就職しましたけどね。
人生の転換期は、ベルリンでの経験。マイスター制度(高い専門技術を持つ人材を支援・育成するための手厚い制度)があるドイツでは、大工は尊敬され、その平均年収は1,000万円と、日本よりはるかに高収入です。そして、街を歩いていても、工事現場は日本のようにブルーシートで覆われていない現場も多く、子どもたちはそこで働く大工たちに羨望のまなざしを向けていました。
一方、日本の職人はといえば、世界トップクラスの技術を持っているにもかかわらず、とりまく環境はまるで真逆。しだいに、「自分がかつていた建設業界は日本が世界に誇れるもの。職人たちが正当に評価されたり、日本の職人が海外で稼げる業界になるんじゃないか」と思うようになったのです。
我が子の誕生をきっかけに、リクルートを退職して37歳でドイツから帰国。経験も体力もあり頭も働く次の10年をかけてみようと、一度は断念した建設業界に飛び込むことを決意し、内装工事会社のユニオンテックに参画しました。そのなかで、職人が誇りを持ち安定して働ける環境づくりをめざして、職人と施工主を直接マッチングするプラットフォームをスタート。2021年に同事業のMBOを経て、現在のクラフトバンクが生まれました。
渡辺:クラフトバンクには、建設や不動産、カフェ経営、スタートアップ出身など、さまざまなバックグラウンドを持つ方がいて、平均年齢も20代と若い。武田さんも若干25歳でプロダクト責任者に抜擢されましたよね。DeNAでの開発や、趣味のオンラインレッスンサービスを提供するミコリーでCTOを経験した武田さんが、あえてレガシー産業である建設業界に飛び込んだ一番の理由は何だったのでしょう?
武田:簡単にいえば、でかい仕事をしたいと思ったんです。まず、58兆円以上の市場規模がありながらも驚くほどDXが遅れている建設業界は、ビジネスポテンシャルが間違いなく大きい。また、韓が先述したとおり、日本の職人たちは高い技術を持つのに、多重下請け構造ゆえ、賃金は世界的に見ても低水準に甘んじています。このような業界で良いプロダクトをつくることができれば、社会に与えるインパクトは大きいだろうなと考えていました。
そんなときに、ユニオンテックの代表として建設業界のDXを進めていた韓の存在を知り、「自らが工事会社としてDXをやっていて面白いアプローチをしているな」と思って同社に転職したんです。
韓:オンラインで武田と面接したとき、目がキラキラしていて、学ぶことに対してとんでもなく貪欲なヤツだなと思いました。技術者というより経営者っぽい香りもしていましたね。それは今でも変わらず、お金を儲けることが好きで、「これ作ったら売れます!」とよく言っています(笑)。
武田:大きなことをするには、お金が必要ですから!
韓:自分の中では武田は新人種のエンジニアでお金の嗅覚があり、クラフトバンクを立ち上げたとき、プロダクト責任者として武田を迎えました。そのとき、2年後にはもう自分を超えているだろうなとワクワクしていたのを覚えています。同時に、彼のような成長意欲に貪欲な若い人が活躍できる土壌を作らなければいけないな、とも。
渡辺:日本のエンジニアは優秀な人が多いですが、会社の枠組みやルールの中でパフォーマンスを出そうとすることが多い。一方、シリコンバレーのエンジニアは、いかにして自分の技術をモノづくりや問題解決のために使うかを重視しています。武田さんは後者の匂いがぷんぷんしましたね。
武田:弊社は上層部が決めた物事に社員が従うという文化がなく、その都度、現場のメンバーが勝手にチャレンジしていることが多いんです。それがうまくいって、いつの間にか組織に伝播して……ということの繰り返しで、会社全体がいい感じに動いている。でも、さすがに、入社1年足らずの時点でSaaS開発の全権を委任してもらったことには驚きました。
韓:自分は事業を創る側にまわらないといけないから、権限委譲をせざるを得なかった、という事情もあります。そもそも、武田とは16歳も年が離れていて言語プロコトルも違うので、武田に任せることで若い人たちがおじさんに気を遣わずにプロダクトをつくれる、と思い、今でも若い人たちに大いに任せることにしています。
伝統産業の生産性向上を目指す事業に注目、建築DXは本命感
韓:3年半在籍したユニオンテックでは、それなりに工事の知見を深めたし、しっかりと利益も出していました。一方、R&D事業として手掛けた「クラフトバンク」の前身となるマッチング事業はマネタイズという観点ではあまりうまくいかず、赤字を垂れ流していたんです。やがてコロナ禍に突入し、内装会社で手掛けたオフィスや飲食店、ホテルが全滅に。かつ工事事業もなくなり、トリプルパンチ。
もともとクラフトバンクは工事会社の味方、内装工事業は元請の立場だったので、将来的にはコンフリクトを起こすと考えていた中で、コロナ禍でクラフトバンク事業のユーザー数は劇的に伸びていました。そしてコロナ禍で本丸の内装工事業が瞬間的に苦しくなり、財務的にも厳しい状況となり、これは「ひとつの大きなきっかけだな」と思い切って勝負をかけて分社化することにしました。なので、僕たちはコロナ禍があったことで創業し、コロナ禍ど真ん中で創業した会社です。
渡辺:ちょうどその頃、デライト・ベンチャーズは日本の伝統的な産業の生産性向上を図る事業を探していて、建築とDXの組み合わせは本命感がありました。韓さんにピッチしていただいた事業には本命感を感じました。
韓:コロナ禍であったとはいえ、オンラインで2度話しただけで投資を判断してもらったスピード感に驚きました。自分のリクルートで投資をしていたときの経験でも投資委員会に向かうまでには時間もかかっていて、デューディリジェンスもとても細かかったからなおのこと、そのギャップが衝撃で。
渡辺:感覚的にはシード的な感覚でしたよね。とてもいいアセットはあったけれど、プロダクトはまだできていませんでしたもんね。
余談ですが、クラフトバンクの印象が、僕が金融からベンチャー時代のDeNAに入社して「すごい人たちがいるな」と感じた時の雰囲気に似ているなあとも思いました。どこか懐かしい感じがしたというのかな。まわりくどいことを話さずに、率直で話が通じやすかったり。
韓:僕から見た渡辺さんの第一印象は、ずいぶん探求心がある方だなということ。僕も話がしやすいし、渡辺さんからの話も分かりやすいなと思いました。研究肌というのか、僕がイメージしていたVCとは違うなあと思いました。
渡辺:韓さんがたくさん悩んで、ものすごい濃さで考え抜いたアイデアを、月1回、わずか1時間半の面談で理解しなければならないのは、なかなか大変でしたよ。質問ばかりして起業家の時間を奪うわけにもいきませんしね。でも、だからこそ、納得できたときは嬉しかったし、力になりたいと強く思いました。
“業界の当たり前”を変えていく難しさに挑む
渡辺:クラフトバンクは、業界の複雑かつ、根深い課題に対してアプローチしています。僕が韓さんだったら、売上げが一定規模を超えるまで不安で仕方なかったと思うのですが、韓さんはまるで難しいパズルを楽しむように嬉々として取り組んでいるのが印象的でした。「スタートアップとはこういうものなんだ」という理解があり、新規事業の立ち上げが肌にあっているんだろうなと思いましたよ。
韓:「眠れなくなりませんか」って、いろいろな方に聞かれたんですが、全然そんなことなくて(笑)。もはや悩む余裕などない、走るしかないというほうが正しかったかな。30人の社員を抱えていたけれどまだプロダクトがなくて、出資いただいたお金を燃やし続けながら、当たるかどうか分からない事業を走らせなければいけないという状況でしたから。
渡辺:「問題解決はけっして障害ではなく、これこそが本業なのだ」という心構えを感じましたよ。韓さんはダイナミックに挑戦しながらも、いつも理路整然と現状を説明してくれましたよね。苦しみながら投資家向けの説明をしているのであれば素晴らしい説明能力だし、苦しい状況も楽しめる生粋の起業家だなと感じていました。
韓:よく社長は孤独と言いますが、僕はすごくありがたかったことに、1人で立ち上げたわけではないので孤独感がなかったんです。社員も「本当に困ったら給料ゼロでいいですよ」と言ってくれたし。もちろん、ゼロにはしないけれど、その気持ちが嬉しかった。たぶん、ひとりで戦っていたら辛かったと思います。
渡辺:たしかにクラフトバンクは、韓さんひとりではなく、若い人たちが非常に大きな責任をもってやっているなという感じがありますね。
武田:えーっと、実は僕は不安で眠れなかった派です(笑)。「このプロダクトができれば成功する」という未来は見えていたけれど、残り期間とにらめっこしながら「本当に作れるのかな?」って……。投資家からのフィードバックもたくさんくるし、「なんでマッチング事業からピボットするんだ」と言われたことをよく覚えています。でも、それ以上に、社内のプロダクトチームからは「やりたいことは分かるけど、本当にそれができるの?」という反対意見もあって、これをやるのは難しいな、できるのかな、という不安はありました。
韓:プロダクトだけで勝負するなら良いものを作ればいい、営業だけで勝負するならただ売ればいい。でも、僕らが手掛けている事業にはバランスが不可欠です。現場の職人さんがデジタルに慣れていないことが多いので、いいプロダクトを作るだけでは、使ってもらえません。
そのことを武田はちゃんと理解していて、誰よりもお客さんのもとに足を運び、積極的にコミュニケーションをとってくれている。仮に僕が「お客さんとお酒を飲むのも大事」と言うと「プロダクトを軽視してる」ってなりやすいけど、プロダクトを作る人間である武田が言うと、会社がそういうカラーになっていくんですよ。
渡辺:クラフトバンクの強みは、まさにそこ。営業とエンジニアの分断がないことですね。ものづくりの人がちゃんとビジネスの領域に入っていくし、ビジネスの人も、たとえ技術的なことが分からなくても必要なものを伝えているのが特長だと思います。
韓:そうですね。うちはプロダクトとCSがくっついているような会社だと思っています。両立させることがこの業界の難しさであり、唯一の成功方法なんです。
世界から評価される、職人の1億円プレイヤーをつくりたい
武田:今、やりたいことはたくさんあります。直近ではクラフトバンクのステージを1ランクあげること。そして、工事会社の社長にとっての経営に係る相談者として第一選択肢になりたいと思っています。
もちろん、社員の給料も大規模企業並みに上げていきたいです。ありがたいことに、さまざまな企業からお声かけをいただき、収益を確立できる自信はあります。
それから、工事会社向けの経営管理サービス「クラフトバンクオフィス」を通して、顧客企業の経営状況を見える化しているので、いわゆるBaaS的なこともやっていきたい。とにかくやりたいことがたくさんあって、何を選ぶかが難しいぐらいです。
韓:もともとGoogleが情報を持っていない領域を独占するという意味で、クラフトマン(職人)のデータバンク(=クラフト+バンク)をつくりたいと思っていました。
悩ましいのは、僕らがいる市場が大きすぎること。実際、47万社・300万人超の職人がいるなかで、「クラフトバンク」に登録しているのはわずか0.1%の4,000人。これで80人を超える社員を賄えるくらいの売上になっています。今対峙している市場が大きすぎて、新しいことよりも、既存事業ををどう拡大していくか、それればかりに目がいきがちなる。ここが僕らの難しさですね。意識して、新しいことにチャレンジする意志を持つ必要があると感じます。
渡辺:海外進出はどうですか?
韓:いつか挑戦したいとは思っています。日本の職人は世界でも圧倒的な価値を発揮できる。彼らと一緒に外貨を稼ぎに行きたいと思っています。
日本は素晴らしい技術を持った職人がいるにもかかわらず、残念ながら正当な対価を得られていないことから、その数はどんどん減少しています。この社会課題を解決すべく、「職人が正当に評価される世界」を築くのが、クラフトバンクの使命。世界から評価される職人の1億円プレイヤーをいつか生んで見せます!
Profile:
●クラフトバンク株式会社 代表取締役 韓英志 氏
東京大学大学院(建築学)修士課程修了。2005年株式会社リクルートに新卒入社し、住宅事業(現SUUMO)を経て、新規事業開発・事業撤退を複数経験。2011年以降、Non-HR領域におけるグローバル戦略を立案し、東南アジア及び欧州市場への参入を主導。2015年には、独・飲食店予約プラットフォームQuandoo GmbHのM&Aを実行し(271億円)、本社・ベルリンに赴任しPMI及び16か国展開を陣頭指揮。2017年6月にリクルートを退職した後、約半年間の育休期間を経て、2018年1月にユニオンテック株式会社に経営参画。2021年4月、IT部門(クラフトバンク事業)をMBOし、クラフトバンク株式会社を創業。
●クラフトバンク株式会社 Co-founder / 執行役員CPO 武田源生 氏
鈴鹿高専在学中に高専プロコン競技部門優勝(2013年)を経て、2016年株式会社ディー・エヌ・エーに新卒入社。大手ゲーム企業との協業案件ににおいて、アカウント基盤や認証・認可システムを中心の開発を行う。2017年株式会社ミコリーに入社。CTOとしてインフラからアプリケーションレイヤーまでの開発全般を担当。2020年ユニオンテック株式会社に入社し、2021年4月にクラフトバンク株式会社をMBOにて共同創業。執行役員CPOとして、プロダクト開発及びCS組織を率い、事業戦略・プロダクト戦略の立案を担当。
●マネージングパートナー 渡辺大
1999年京都大学文学部卒業、大手銀行を経て2000年株式会社ディー・エヌ・エー入社。国内での新規事業開発や営業・提携業務の後、2005年から海外事業責任者を担当。2006年DeNA北京総経理。2008年に渡米し、DeNA Global, President、DeNA Corp., VP of Strategy and Corp Devなど。日本発テック企業による海外進出の厳しさを思い知る。2019年にDeNAグループを退社し、デライト・ベンチャーズを立ち上げ。シリコンバレーと日本を行き来して日本発スタートアップの成長と海外進出をサポートしている。