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2021.11.11

新規事業立案における課題の見つけ方

Ryo Bando
Ryo Bando
Managing Partner
新規事業立案における課題の見つけ方

はじめに

デライト・ベンチャーズにおいて新規事業・起業家をどんどん生み出すベンチャー・ビルダーを担当しています坂東です。本稿では課題解決型の新規事業立案フェーズにおいてもっとも重要でかつアイデアの起点となる「課題」の見つけ方についてご紹介したいと思います。

前回の記事では、新規事業立ち上げにおける課題解決型の事業アイデア段階のチェックポイントについてご紹介しました。まずは第一に実在する「課題」を特定することからはじめ、その課題が大きいことを確認し、その課題を直接的に解決するソリューションを考えて、既存の代替手段やサービスよりも優位な提供価値を届けることが重要であるとお伝えしました。

アイデア(課題)をどうやって見つけるかは起案者の興味や経験にも依存するところが大きく、ある種の出会いなので運の要素も強いと思います。我々ベンチャー・ビルダーの支援側からしても、創業者とアイデア(課題)のマッチングは重要かつ難しいテーマではありますが、いくつかの手法がありますので参考にしていただければと思います。

そもそも課題とは何か?

課題の見つけ方を紹介する前に、そもそも「課題とは何か?」を整理したいと思います。「ありたい姿」と「現状」のギャップが顕在化したものが「問題(Issue)」であり、「ありたい姿」に向かう上での問題を細分化してそれをそれぞれ改善しようとするお題・命題が「課題」と考えていただければと思います。

例えば、「現在体重が90kgの人がなんとかして75kgになりたい」とします。この場合、痩せるためにカロリー摂取や消費の命題やそれに関わる各種ハードルを課題として設定して設定するわけです。「運動する時間がない」、「運動習慣や食事制限が続かない」、「強制的に運動するためのパーソナルトレーニングは高額で払えない」「ジムが遠い場所にあってなかなか行けない」等粒度は様々ですがこれらは課題と言えるでしょう。

ただし、90kgの人が現状に十分満足しており75kgになりたいと考えてないのであれば、その観点においては課題はありません。つまり課題が存在するということは、問題点が顕在化していて、その問題点を改善・解決したいことが前提となります。もっと言うと、解決するために何かしらの行動をしていたり工数やコストを費やしていることが課題が顕在化している証左になります。

前置きが長くなりました。それでは、課題の見つけ方を紹介していきましょう。

領域 × バリューチェーンで課題を見つける

知見があったり興味がある領域セグメントを定めて、そのセグメントのバリューチェーンを軸にとってそれぞれのステークホルダーの問題・課題を見つけていく方法です。バリューチェーンやターゲット・シーンが漏れなく正しく設定されていれば課題候補を適切にピックアップすることができることがこの手法の特長です。

(以下の図は中途採用領域のバリューチェーンを整理した例)

領域セグメントは、その理解度や課題の数に応じて適切に絞ったり拡げると良いでしょう。見つかった課題が大きくて切実で、既存代替ソリューションではうまく解決されていない課題を見つけることが望ましいです。そのためには表層的な調査にとどまらず、各バリューチェーンに関わる各ステークホルダーとなるユーザーに深くヒアリングすることが求められます。

ヒアリングの際には闇雲にヒアリングするのではなく、バリューチェーン整理を踏まえて一定の大きい課題の仮説を立ててから行うことで有益な情報を引き出すことが期待できます(アンケートやヒアリングの際に、仮説に寄りすぎた誘導尋問をしてはいけません)。

ターゲットユーザーの理解を深めて課題を見つける

対象領域のユーザーターゲットについて、1外からユーザーの言動を観察し、2直接インタビューし、3ユーザーに没入する、というプロセスを経ることで想定していなかったターゲットユーザーの課題を見つけていく方法もあります。Empathy mapと言われるターゲットユーザーを深く理解するためのフレームワーク(検索するとフレームワークの図が色々と出てきます)を活用すると整理しやすいでしょう。ユーザーが目指すゴールを踏まえ、言動・感情・環境などを深く理解し、どんな課題を抱えているのかが見えてきくると思います。

またユーザーの理解を深めるときには、カスタマージャーニーマップというフレームワーク(これも検索するとフレームワークの図が色々と出てきます)を使うことも有用です。ユーザーの行動ステージに応じた、「行動」「感情」「タッチポイント」「提供価値」「不満点」等を網羅的に把握して行動ステージ毎の課題を洗い出し、それぞれの課題の緊急度・重要性を比較しましょう。

ここで注意なのが、課題を考えたり想像するのではなく、実際に困っているというファクトを洗い出して整理することがポイントです。
また、この手法は比較的ニッチな課題まで見つけやすい手法ですが、その課題の発生頻度や対象者数が少なくビジネスとして解決するほど課題が大きくない懸念もありますので、早めにその課題の規模感や課題設定の粒度を確認すると良いでしょう。

PEST分析で課題を見つける


PEST分析とは、Politics(政治・規制・国際情勢)、Economy(経済・消費動向・所得変化)、Society(社会・人口動態・価値観変化)、Technology(技術進化)の各種変化を捉えることです。特定の領域におけるこれらの変化を捉えて新たな課題を見つけるというものです。各省庁や研究機関のレポートにはこれらの事象を予測し、それに関連した課題提起がされています。それぞれの対象領域においてPESTの各要素の関わり度合いは様々だと思います。

Politicsであれば、規制が厳しくなったり緩和されたり新しい変化を捉えることで新たなる課題が発生しないかを見つけます。例えば金融・行政・医療などの比較的規制が厳しい業界はUXが悪いことが多く、規制変化で新たに大きな課題が生まれるチャンスです。

またSocietyであれば、コロナ禍などの価値観を大きく変える出来事も新たな課題を生み出す機会となります。言うまでもなくオンライン会議やバーチャルオフィスなどはその課題を解決する事例でしょう。

Technologyについては、課題を解決するソリューションの観点で大きなビジネスチャンスとなります。これまでの技術環境において解決できなかった課題を更に簡単に優位に解決できることはないかを考えてみると良いでしょう。

自身の経験から課題を見つける

日常生活やこれまで従事した業務など、これまで自分自身が経験し問題点(怒り・恐れ等)を感じた領域、自分が専門知識を有している領域、自分しか気づいていない課題を見つけるというものです。

当社のベンチャー・ビルダーで生まれている新規事業も、創業者の過去の独自の経験を踏まえた課題にアドレスしている事業に投資をしているケースが多いです。やはり創業者が捉える課題の解像度が非常に高く、アイデアだけではなく起業家のストーリー・体験が他者には真似できない戦略になり繋がり、事業推進・成長においてもその領域の経験・知見・ネットワークが活かされます。

ちなみに、私も2008年に「みんなのウェディング」という結婚式場のクチコミサイトを立ち上げたのですが、自身の結婚式の準備段階で式場の大きなミスが連発したこともあり既存の結婚式場メディアでその式場について調べてみたところ、式場のブランディング一辺倒の写真・コンテンツと式場を褒める薄い内容の口コミばかり掲載されていて怒りを覚えたということがありました。人生の大切なライフステージイベントになのに、大きな情報の非対称性があり納得感のある意思決定ができないウエディング業界に腹が立った経験から、ユーザー第一主義で透明性のあるリアルな費用明細情報や本音の口コミを提供するサービスを始めたというわけです。

自身の経験に基づいた課題を見つけて顕在化は確認できていても、その課題は特定の立場やユースケースのみに起ったりしてさほど大きくない場合もあります。また、その案に固執する傾向が出がちなので客観的な視点を持ちつつ、他のターゲットユーザーも同じ課題を深く持っているかをチェックする必要があります。

先行プレイヤーから課題を見つける


特定の領域を絞って国内外のスタートアップをさまざまな軸で抽出した上で、そのスタートアップが解決している本質的な課題を調査し、それを参考にアイデアを見出す手法です。

その先行スタートアップの展開するマーケットにおいては、少なくとも課題は顕在化しているので、日本国内で事業展開する場合に、課題が顕在しているのであれば、課題不在による失敗確率は比較的低いでしょう。また、その先行スタートアップが儲け始めているタイミングがまさに今なのであれば参入タイミングも良いと考えられます。
一方で、レッドオーシャンとなりやすく明確な競合優位性が求められますので解決方法は工夫が必要です。

当社においても、国内外の最近調達したスタートアップリストを大量にストックし、そのスタートアップ等がどのような課題を解決しているのかを調べることで課題解決アイデアのネタとして客員起業家(EIR)候補の方々に情報提供しています。実際に、自分の専門領域や知見の深い領域にアタリをつけながら、これらのスタートアップリストやアイデアリストを元に事業案を検証・ブラッシュアップして事業化に進んでいる案件が多いです。

まとめ

いくつかの課題の見つけ方をご紹介しましたが、どれか一つの方法に絞って見つけるのではなく、複数の方法を組み合わせて活用することでより良い課題を見つけやすくなるでしょう。

上記のどの手法にも共通して言えることですが、素晴らしいアイデアを「考える」・「想像する」・「発明する」という姿勢ではなく、フラットに観察して「見つける」という姿勢が重要です。本稿でも「見つける」という表現にこだわって記載していることにお気づきいただいたかもしれません。

これらの手法は一定理解いただけたとは思いますが、これらの手法を実際やってみて課題を見つけにいく”アクション”こそが一番大事であると言うことは最後にお伝えできればと思います。

次回は、見つけた課題をどのように選定・評価するかをご紹介したいと思います。

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