2023.11.2
Entrepreneurs who jumped into Silicon Valley: "It's better to come to the U.S. early and fail than to get lost" - Challenges and mutual help from entrepreneurs
在米日本人起業家4人×マネージングパートナー南場智子 オンラインイベント
日本から米国西海岸(ベイエリア)へ飛び込んだ起業家たちは、自らの事業に打ち込みながらも互いに助け合う関係性やコミュニティを築いています。デライト・ベンチャーズでは、日本の起業家にも彼らの米国での活動をリアルに伝え、起業家の海外進出への参考となる情報を共有すべく、マネージングパートナーの南場がモデレーターを務め、在米起業家4人をパネリストに招いてオンラインイベントを開催しました。
市場も大きく熱狂を感じられる、起業家にとっては最高の環境
南場:今日はパネリストもオーディエンスも私が尊敬する起業家の皆さんに来ていただきました。忙しい中ありがとう!初回ですので、まずアメリカに飛び込んだきっかけ、アメリカに行ってよかったことを聞かせてください。
内藤聡氏(以下、内藤):Anyplaceの内藤です。サンフランシスコでリモートワーク環境完備の宿泊施設事業を運営しています。
渡米したのは大学卒業後すぐ。きっかけはFacebook設立を題材にした映画『ソーシャル・ネットワーク』を在学中に観たことです。シリコンバレーにはゼロイチで事業を作って世界にインパクトを与える若い人が大勢いると知って、すごくカッコいいと思いました。
米国で起業してよかったのは、市場規模が大きいこと。そして挑戦し続ける人にとって、とてもいい環境だということです。米国ではもし失敗しても、チャレンジし続けていればお金は集まります。起業家にとっては最高の場所だと思います。
平田叡佑氏(以下、平田):平田です。生成AIを使った教育事業、TiimoAIを運営しています。内藤さんが運営していたサンフランシスコの起業家のシェアハウス「Tech House」の運営を引き継ぐかたちで、起業家のサポートも行っています。
僕が2年前にサンフランシスコへ渡米したのは、世界一の人たちと一緒にやれる環境が熱いと思ったから。サンフランシスコでは、Web3やAIに関するイベントが毎日のようにあり、行けば実際にプロダクトを作っている人や有名な起業家と会えて、熱狂を体感できます。同じ空間にいれば「僕も行けるかな」と思える。これはやるしかないと渡米直後からすごく興奮しました。
大東(だいとう)樹生氏(以下、大東):DeStoreの大東です。ブロックチェーンを使った次世代のロイヤリティシステムを開発しています。
渡米したのは高校を卒業した5年前。ずっとスタートアップがやりたかったのですが、一度成功すれば、もっと上を目指したくなるはずと考え、最初から地球で一番でかいマーケットで始めた方が後悔しないと思いました。
来てよかったことは、本当の意味で世界を変えることができる場所だということ。人がごった煮の場所で新しいものを作ることができれば、ほかの国にも展開しやすい。しかも、そういう考えを誰も笑わないのがいいところです。
稲員(いなかず)悠太氏(以下、稲員):Dolamiの稲員です。サンフランシスコでVR関連のアバターを販売・購入できるマーケットプレイス事業を手がけています。
サンフランシスコには約2年前に来ましたが、ほかの3人とは違って事業ファーストでここを選択しました。バーチャルリアリティのマーケットは、日本と米国では約10倍の差があります。米国ではコンシューマー向けのVR事業にチャレンジして、今も大きくなっている事業があります。
来て一番よかったことはカルチャーの違いです。最終消費者のテックや新しいものに対する受容性が高く、特にVRに関しては、シリコンバレーエリアで人口の20%がVRヘッドセットを持っているといわれます。日本では規制があって取り入れられないようなものや「ちょっと怖い」と思われそうなものも、米国では「面白そうじゃない、見せてみてよ」と言われる。視座が世界標準に引き上げられます。
事業で使う英語は数をこなして慣れる
南場:みんなの野心に応える熱狂やスケールがやはりベイエリアでは現実なんですね。そうは言ってもいきなり米国に飛び込んで、苦労も多かったのでは??
内藤:英語では苦労しました。当初はスターバックスの注文にも困るほど。しかしZoom創設者のエリック・ユアンも中国出身。日本人だから、英語がしゃべれないからというのは言い訳にできなくなってきていると感じます。
それに言語の問題にはいつか慣れますし、言葉以外の部分でポイントを稼ぐ方法もあります。例えば、僕は社員を現地で採用していてほとんど日本人はいませんが、会社では誰よりも働きます。言葉以外のところでカバーできることは、いっぱいあると思います。
稲員:ジェスチャーはすごく大事で、言葉が通じなくてもジェスチャーである程度、言いたいことが伝わることもあります。英語自体は数をこなすしかないので、僕はオンライン英会話サービスで数をこなしていました。
大東:事業で使う英語は限られていますからね。私は父の仕事の関係でイギリスに少しいたことがあって日常会話はできる方でしたが、起業してから仕事やタスクに応じた英語力を磨きました。
我々がどれだけ英語を頑張っても、ネイティブよりはできません。違うところでポイントを稼ぐことになります。例えば、共同創業者やほかの関係者とのネットワーキング、スタッフとのコミュニケーション、営業が大事。そうすると話し方や話す内容は絞られてきます。特定の方に対して必要な英語力を、数をこなして上げることで慣れていくものかなと思います。
コミュニティのつながりで日本出身の起業家は変わってきた
南場:言葉以外ではどんな苦労がありましたか。
内藤:中国や韓国、インドなどから来た人は既にネットワークがあって、先行するファウンダーやVCパートナーからの紹介で人に会うことができます。でも、著名VCのSequoia CapitalやAndreessen Horowitz(a16z)に日本人パートナーはいませんし、ファウンダーも数が少ない。それが日本人にとってベイエリアでの起業を難しくする、1つの壁かもしれません。
南場:そんな中だからこそ、日本人もお互いの助け合いが始まっているんですよね。皆さんは、どんな助け合いをしているんですか。
大東:一緒に挑戦し合う仲間、家族、同志のようなレベルでの助け合いが多いです。私は助けられている側ですが、例えば内藤さんほか2人の先輩方には毎日、日報を送ってフィードバックをいただいています。先人が踏んできたミスを踏まないようにすること、足りないこと・ものを補ってもらうことではお世話になっています。
南場:内藤さんやKiyoさん(サンフランシスコを拠点に活躍する連続起業家の小林清剛氏)が、皆さんの日報を読んでいるという話はよく聞きます。相談や報告をするのは事業上のことですか、それとも生活上のことなどですか。
大東:事業のことが多いですが、起業家としてのスキルセット、心構えなど、包括的な指摘や𠮟咤(しった)激励もあります。
内藤:自分が渡米した10年近く前、日本人は孤軍奮闘というイメージでした。Treasure Dataの芳川さん(芳川裕誠氏)やAnyPerkの福山太郎さんなど、活躍している人もいましたが、心が折れて帰った人もたくさんいます。
KiyoさんがKDDIに会社を売却してベイエリアに来てからは、コミュニティで共に支え合うようになりました。するとコミュニティにいる人たちが、一度事業で失敗しても「みんな頑張っているからまた頑張ろう」と、自然と帰らなくなっていったんです。これは、すごく大きな変化でした。
ここにいる僕以外の3人はTech Houseの出身で、同じシェアハウスに住んでビザの取り方や会社の立ち上げ方を話し合った最初の起業家ですよね。
稲員:僕はTech Houseがなかったらアメリカにいなかった、あるいはアメリカに行くのが1年半から2年遅れていたかもしれません。起業しようと思っても、ビザをどうするか、会社をどう立ち上げたらいいのか、設立後に銀行口座をどう開設するのか……。日本だと当たり前にできることが、アメリカではゼロから1つをリサーチすると3〜4カ月かかります。
Tech Houseに住んだおかげで、同じステージを既に超えて少し先に進んでいる仲間がいた。事業のことから個人的なことまで相談させてもらえる環境がありました。それがずっと支えになっていたし、今でもすごく支えになっています。
南場:皆さんがすごいのは、自分の会社や事業にも全力でコミットしながら、何の見返りもなくほかの起業家を助けていること。小林さんは「99%は自分の事業にかけ、残りの1%でできる限りのことをみんなのためにやっている」と言っていますが、その1%でやっていることが私の100%よりすごいというバイタリティです。
コミュニケーションやマネジメントの苦労には日本との共通点も
南場:今日はオーディエンスとして、日本にいる起業家の方にも集まっていただいています。質問のある方はぜひ、この機会に聞いてみてください。
野澤比日樹氏:ZENKIGENの野澤です。HR系のサービスをやっています。最初の1人目の仲間とはどう出会い、どう口説いて一緒にやるようになったのか教えてください。
大東:ファウンダーは腹を割ることができて、グローバルで組織していく気概があれば、どこの人でもいいと思うんです。だから私は日本でエンジニアを集め、結果、共同創業者は日本人になりました。その中で米国に何人か来てもらって、一番いい人を選んでいます。
米国ではスタートアップで働くことが特別ではないので、現地採用については共感してもらえれば話を聞いてもらえるし、雇えます。一方、差別法には気を付けなければいけませんが、解雇も日常的で、雇われる人もひとつの場所にこだわりません。そこで、採用と解雇のサイクルが早く、会社に合う合わないの結果も早く出ます。
若宮和男氏(以下、若宮):メタバースクリエイターズの若宮です。日本から世界で活躍できるクリエイターを生み出すためのプロダクション事業をやっています。事業は日本で始めましたが、当初からグローバルへ出ようと考えていて、チームづくりが大きな課題となっています。皆さんは英語圏で、人種もさまざまな人たちとのチームづくりをどうしていますか。
稲員:英語しか使えない環境では、日本語同士でのコミュニケーションよりは確実に伝達のクオリティが下がります。そこで僕は週1回、自分の考えを示す長めのレターをスタッフに送るようにしました。文字に起こして時間をかければ、伝えられることはあります。
大東:英語ネイティブの人と1on1でやり取りをするときに、相手が言っていることが全て分かり、こちらも全て伝えることは、どうあがいても無理です。だから私もできるだけ、文字でやり取りするようにしています。人間関係は一緒に食事をするなどでよくなるかもしれません。でも、仕事のコミュニケーションはできるだけ、文字に書いて誤解がないようにと意識しています。
内藤:日本だと「給料をもらっているから働く」という感じですが、こちらではプロスポーツ選手と近くて「パフォーマンスを出してより良い給料をもらう」という感覚なので、みんなプロフェッショナルとして僕のやりたいことを汲んでくれます。
マネジメントの仕方も日米で違う気がします。こちらでは彼らのやりたいことやモチベーションから話を始めます。会社が達成しなければならないことに対応して、彼らに達成してほしいことの確認はしますが、やり方は任せます。できないときは会社がサポートはしますが、スポーツの世界と同じで評価はシビア。やり方を体得すれば、意外と日本よりもマネジメントしやすいかもしれません。
それと、さまざまなバックグラウンドや人種の人がいるので「なぜそうするのか」と聞かれることが非常に多い。日本の感覚では当たり前の意思決定も、彼らにとってはなぜか分からないので、結論に至った経緯、コンテキストを伝えて、納得感を持たせることはすごく大切です。
南場:今、話に挙がったことは日本でも実は大事で、言語が同じでも100%理解し合うことも、言いたいことを全て言うことも難しいんですよね。組織が成長すると伝達力はだんだん悪くなっていきます。母国語でない環境で皆さんが苦労していることは、実は普通の組織での要諦がクローズアップされているということではないでしょうか。
渡米を迷うぐらいなら早く来て早く失敗した方がいい
佐藤哲太氏(以下、佐藤):ミライのゲンバの佐藤です。皆さんが起業前にリサーチしたことと、実際に行ってやり始めてみてからのギャップや想定外だったことがあれば聞かせてください。また、もう一度戻れるならやっておきたかったことがあれば教えてください。
内藤:アメリカって先進国で豊かな人も多いのに、不便なことがものすごく多い。日本って便利すぎて、ある意味スタートアップにとってのチャンスが少ないんです。UberもAirbnbもそうですが、それが事業チャンスでもあるんだなと、来てみて気づくことがたくさんあります。
もう一度戻れるならやりたいことは、もっと早く来ておきたかったということですね。
平田:自分もサンフランシスコに行く前に2〜3カ月、行くか行くまいか迷った時期がありましたが、今思えば無駄でしたね。
佐藤:いろいろ調べることやリスクを抑えるステップを踏むより、早く行って早く失敗した方がいいんですね。
南場:これからアメリカに来る人に「これはやめておいた方がいい」とか「ここは気を付けた方がいい」といった失敗の教訓のようなものはありますか。
内藤:Anyplaceは出資を受けた当初、長期滞在できるホテルの部屋のマーケットプレイス事業でした。年間100万〜200万ドルの売り上げがありましたが、成長はフラットでした。ところがコロナ禍以降、現在の事業にピボットしたところ、売り上げはめちゃくちゃ上がるし、お客さんも定着するし、フィードバックもすごくいい。真のPMFを感じました。出資から2〜3年、だらだらと、ちょっとしたトラクションで事業をやってしまいましたが、もっと早くドラスティックに事業を変え続けてやればよかったなと反省しています。
大東:気を付けた方がいいのは、根拠のないこだわりは持たないほうがいいということ。ベイエリアの起業家について「日本人がつるんでダサい」という人もいると聞きますが、私たちは別に「かっこよくなるため」に来ているわけではありません。一番大事なのはプロダクトと、プロダクトのユーザーがグローバルで伸びるかどうかということ。そのために使える手札は全部使うべきです。
南場:ベイエリアのコミュニティの人たちは本当に素晴らしいと感動しました。事業によってどういう視野で考えるのが適切かはいろいろですが、どこにいてもグローバルな目線は持てます。これを機に、意味のあるつながりができれば、うれしい限りです。
今後も事業分野やテーマなどを分けて、こうしたイベントを続けていければと思います。皆さんお忙しい中、ご参加ありがとうございました。
Profile:
●Anyplace 内藤聡氏
リモートワーク向けサービスアパートメント事業の「Anyplace」をサンフランシスコで創業。Uberの初期投資家としても知られるエンジェル投資家のジェイソン・カラカニス氏らから出資を受け、サービスを展開する。
https://www.anyplace.com/
●TiimoAI 平田叡佑氏
AIによるパーソナル教師「TiimoAI」を開発・運営。サンフランシスコで起業家シェアハウス「Tech House」の管理人も務める。
https://tiimo.ai/
●DeStore 大東樹生氏
小売店向けに、ブロックチェーンを使った参加型のあたらしいロイヤリティシステムを展開する「DeStore」を創業。YC卒業生DAO 「Orange DAO」などから出資を受け、サンフランシスコにて開発。
https://desto.re/
● Dolami 稲員悠太氏
VR関連アバターの販売・購入が可能なマーケットプレイス事業の「Avatown」をサンフランシスコで創業。
https://goavatown.com/
●デライト・ベンチャーズ マネージングパートナー 南場智子
1999年に株式会社ディー・エヌ・エーを設立し、現在は代表取締役会長を務める。2015年より横浜DeNAベイスターズオーナー。2019年デライト・ベンチャーズ創業、マネージングパートナー就任。著書に「不格好経営」。